内閣府主催の「第11次交通安全基本計画(中間案)に関する公聴会」が、2020年12月10日、コロナ禍ということでオンラインにて行われました。
私は、北海道交通事故被害者の会からの公述人として、札幌から発信しました。以下、意見要旨です。なお、発言資料として、資料1(10コマ)と資料2(「交通死傷ゼロへの提言」)を使いました。
第11次交通安全基本計画(中間案)に関する公聴会」での公述人意見(要旨)
2020年12月10日(会場:中央合同庁舎第8号館1階講堂)
北海道交通事故被害者の会 代表 前田敏章
はじめに・・・当会の活動と願い
北海道交通事故被害者の会は、21年前に北海道警察の導きで発足しました。当初から「傷をなめ合うだけの会であれば、意味が無い」と話合い、相互支援だけでなく犠牲を無にせず、被害ゼロを求める活動を重視し継続しています。
共通の思いは、「こんな悲しみ苦しみは、私たちで終わりにしてして欲しい」この一言に尽きます。公道で、本来「道具」であるはずのクルマが「凶器」ともなっている現状を、異常と捉えない「麻痺したクルマ社会」を改め、真に命が大切にされる社会を何より願い、2003年以来毎年関係省庁に「交通犯罪被害者の尊厳と権利、交通犯罪・事故根絶のための要望書」を提出し、求めているところです。(資料1コマ番号2~4)
パラダイム転換への一歩となる抜本施策を盛り込んだ「計画」に
資料1 コマ番号5
「中間案」への意見ですが、パラダイム転換~クルマ社会の根本的転換~への一歩となるよう、次の3点の明記、強調をお願いします。(同コマ番号5)
1点目は、被害ゼロに向けた理念と目標です。「交通事故のない社会」を、「究極的」ではなく、ゼロに向けた中期目標を示し、その過程にふさわしい5年後目標へと「上方修正」をして下さい。中間案の目標では、(厚生統計への補正をしますと)5年間で1万4千人以上の死者を「仕方ない」と追認することになります。計画全体に関わりますので、再検討を強く求めます。
2点目は、走行速度の抜本的抑制です。この課題への踏み込みが、中間案で読み取れないことが残念です。10年前の公聴会でも申し上げましたが、日本学術会議の2008年提言「交通事故ゼロの社会を目指して」では、10年間で死傷者数を10分の1とする中期目標とロードマップを提言していました。その、ゼロを目指す重点課題の第1に挙げられていたのが、走行速度の抑制でした。
しかしながら、中間案p30の「効果的な交通規制の推進」の項には、「規制速度の引き上げ」という安全施策に逆行する記述があることは問題です。削除を求めます。当会資料2の「交通死傷ゼロへの提言」でも強調していますが、安全と速度の逆相関関係は明白です。走行速度の抜本抑制を基本理念にかかげ、「視点」と「柱」に加えて下さい。そして、これを徹底するために、ISA~高度速度制御システム~の早期導入を明記して下さい。
3点目は、歩行者等の安全と生活道路の静穏化です。歩行者、自転車、子ども、高齢者の安全を守りきる道路環境となるよう、「ゾーン30」「歩車分離信号」「自転車レーン」という核になる施策を早期に徹底して下さい。
私たちは、5年前の10次計画に初めて「ゾーン30による低速度規制」が位置づけられた時、大きな希望を感じました。しかし、その後の進展は、課題に比して極めて不十分です。「ゾーン30」は、昨年度末までに、全国3864箇所、北海道内で139箇所と承知しますが、札幌に住む私も、あまりに少なく、「ゾーン」というより点や線のようにしか思えません。大規模に面的に拡げなくては、全ての生活道路での低速度走行という波及効果も生まれません。
中間案でも課題として指摘されている、わが国の歩行者と自転車の被害割合の高さですが、ノルウエー(人口532万)では、2019年の15歳以下の子どもの交通死がゼロになっています。(コマ番号6)
資料1 コマ番号6
一方わが国では、「小学生 交通事故相次ぐ」(2020年12月2日の北海道新聞)との記事見出しが示すように、小学生の被害も止まず、道警が「歩行者保護 徹底を」と呼びかけざるを得ない。(コマ番号9)この現状を改めなくてはなりません。
資料1 コマ番号9
「歩車分離信号」も同様です。安全の効果が以前から確認されているにも拘わらず、設置率は4.5%に留まっています。「自転車レーン」を含め、西欧の進んだ理念と施策を本格的に取り入れ、計画の根幹に反映して下さい。
クルマ社会のマヒを改めるために
私たちは、パラダイム転換を阻み被害を日常化させている要因に、以下のような根深い麻痺があると考えています。
「事故(アクシデント)だから仕方ない」「被害者は(加害者も)運が悪かった」「(誰もが加害者になるかもしれないから)加害者の罪は軽く」「賠償すれば良い(命=お金)」
などです。(コマ番号10)
こうした麻痺を改めるために、次の3箇所の是正を求めます。
- 中間案8ページの「参考コラム」(「道路交通事故による経済的損失」)は、命や健康の被害を「経済的損失」に置き換えており、麻痺を助長しますので削除すべきです。
- 同じく26ページに「重大事故の再発防止」という項立てがありますが、これも麻痺を助長します。原因究明と再発防止は、「重大」事故だけでなく、全ての死傷事件に対して重視して下さい。
- 47ページの、新たに加わった「横断歩行者の安全確保」の項ですが、「運転者に対して横断する意思を明確に伝え」との行は、本末転倒です。歩行者保護の点から適切に改訂すべきです。
以上ですが、私たちは、交通犯罪被害というのは「減らせば良い」などというものでなく、「決して在ってはならないもの」であると強く思います。本11次計画で、ゼロへ向けて大きく舵を取っていただくことを切望します。
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論考・発言
【14】2020/12 内閣府主催「第11次交通安全基本計画(中間案)に関する公聴会」での公述人意見
2021年2月9日
内閣府主催の「第11次交通安全基本計画(中間案)に関する公聴会」が、2020年12月10日、コロナ禍ということでオンラインにて行われました。
私は、北海道交通事故被害者の会からの公述人として、札幌から発信しました。以下、意見要旨です。なお、発言資料として、資料1(10コマ)と資料2(「交通死傷ゼロへの提言」)を使いました。
第11次交通安全基本計画(中間案)に関する公聴会」での公述人意見(要旨)
2020年12月10日(会場:中央合同庁舎第8号館1階講堂)
北海道交通事故被害者の会 代表 前田敏章
はじめに・・・当会の活動と願い
北海道交通事故被害者の会は、21年前に北海道警察の導きで発足しました。当初から「傷をなめ合うだけの会であれば、意味が無い」と話合い、相互支援だけでなく犠牲を無にせず、被害ゼロを求める活動を重視し継続しています。
共通の思いは、「こんな悲しみ苦しみは、私たちで終わりにしてして欲しい」この一言に尽きます。公道で、本来「道具」であるはずのクルマが「凶器」ともなっている現状を、異常と捉えない「麻痺したクルマ社会」を改め、真に命が大切にされる社会を何より願い、2003年以来毎年関係省庁に「交通犯罪被害者の尊厳と権利、交通犯罪・事故根絶のための要望書」を提出し、求めているところです。(資料1コマ番号2~4)
パラダイム転換への一歩となる抜本施策を盛り込んだ「計画」に
資料1 コマ番号5
「中間案」への意見ですが、パラダイム転換~クルマ社会の根本的転換~への一歩となるよう、次の3点の明記、強調をお願いします。(同コマ番号5)
1点目は、被害ゼロに向けた理念と目標です。「交通事故のない社会」を、「究極的」ではなく、ゼロに向けた中期目標を示し、その過程にふさわしい5年後目標へと「上方修正」をして下さい。中間案の目標では、(厚生統計への補正をしますと)5年間で1万4千人以上の死者を「仕方ない」と追認することになります。計画全体に関わりますので、再検討を強く求めます。
2点目は、走行速度の抜本的抑制です。この課題への踏み込みが、中間案で読み取れないことが残念です。10年前の公聴会でも申し上げましたが、日本学術会議の2008年提言「交通事故ゼロの社会を目指して」では、10年間で死傷者数を10分の1とする中期目標とロードマップを提言していました。その、ゼロを目指す重点課題の第1に挙げられていたのが、走行速度の抑制でした。
しかしながら、中間案p30の「効果的な交通規制の推進」の項には、「規制速度の引き上げ」という安全施策に逆行する記述があることは問題です。削除を求めます。当会資料2の「交通死傷ゼロへの提言」でも強調していますが、安全と速度の逆相関関係は明白です。走行速度の抜本抑制を基本理念にかかげ、「視点」と「柱」に加えて下さい。そして、これを徹底するために、ISA~高度速度制御システム~の早期導入を明記して下さい。
3点目は、歩行者等の安全と生活道路の静穏化です。歩行者、自転車、子ども、高齢者の安全を守りきる道路環境となるよう、「ゾーン30」「歩車分離信号」「自転車レーン」という核になる施策を早期に徹底して下さい。
私たちは、5年前の10次計画に初めて「ゾーン30による低速度規制」が位置づけられた時、大きな希望を感じました。しかし、その後の進展は、課題に比して極めて不十分です。「ゾーン30」は、昨年度末までに、全国3864箇所、北海道内で139箇所と承知しますが、札幌に住む私も、あまりに少なく、「ゾーン」というより点や線のようにしか思えません。大規模に面的に拡げなくては、全ての生活道路での低速度走行という波及効果も生まれません。
中間案でも課題として指摘されている、わが国の歩行者と自転車の被害割合の高さですが、ノルウエー(人口532万)では、2019年の15歳以下の子どもの交通死がゼロになっています。(コマ番号6)
資料1 コマ番号6
一方わが国では、「小学生 交通事故相次ぐ」(2020年12月2日の北海道新聞)との記事見出しが示すように、小学生の被害も止まず、道警が「歩行者保護 徹底を」と呼びかけざるを得ない。(コマ番号9)この現状を改めなくてはなりません。
資料1 コマ番号9
「歩車分離信号」も同様です。安全の効果が以前から確認されているにも拘わらず、設置率は4.5%に留まっています。「自転車レーン」を含め、西欧の進んだ理念と施策を本格的に取り入れ、計画の根幹に反映して下さい。
クルマ社会のマヒを改めるために
私たちは、パラダイム転換を阻み被害を日常化させている要因に、以下のような根深い麻痺があると考えています。
「事故(アクシデント)だから仕方ない」「被害者は(加害者も)運が悪かった」「(誰もが加害者になるかもしれないから)加害者の罪は軽く」「賠償すれば良い(命=お金)」
などです。(コマ番号10)
こうした麻痺を改めるために、次の3箇所の是正を求めます。
以上ですが、私たちは、交通犯罪被害というのは「減らせば良い」などというものでなく、「決して在ってはならないもの」であると強く思います。本11次計画で、ゼロへ向けて大きく舵を取っていただくことを切望します。
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-論考・発言
-ゾーン30, 信号, 交通安全基本計画, 歩車分離信号