相互支援の記録(2000〜2013)

【No.009】 高橋真理子さん交通死事件

2007年10月4日

since 2007.10.4.
 2008年4月18日、札幌高裁はロードキル対策を怠った旧道路公団の管理責任を認める画期的判決。しかし2010年3月2日、最高裁第三小法廷は二審破棄の不当判決!

1 概要

2001年10月8日、看護師として働いていた高橋真理子さん(当時34歳)は、苫小牧糸井の高速道路(道央自動車道)を走行中、飛び出したキツネを避けようとして中央分離帯に衝突し、追い越し車線上に横向きに停止した。携帯で連絡をとろうとしていたが、約2分後、3台目の後続車(後続車2台は停止した)が減速もせず前方不注意のまま暴走し追突。真理子さんは頭部を損傷し帰らぬ人になった。(2001年10月9日 北海道新聞
 当初から事故原因など詳細が明らかにされず、遺族自ら目撃情報を得るため看板設置や新聞に広告掲載。1年を経ても起訴をしない検察庁に対し、

2002年12月、自ら告訴。ようやく起訴されたのは事故から1年半後の2003年3月であった。
 遺族が行った事故鑑定を契機に裁判所が行った工学鑑定の結果が出されると、それまで無罪の主張をしていた加害者側は一転して主張を引っ込めた。しかし、

2004年8月23日、札幌地裁の判決は禁固1年執行猶予3年という寛刑。遺族は、短期間で届いた2200筆の署名を添えて検察に控訴を上申したが、地検は控訴をしなかった。

2004年9月、遺族は高速道路の管理責任を問い、旧日本道路公団(現在は東日本高速道路株式会社)に対し国家賠償法2条に基づき損害賠償請求裁判を提起。青野渉弁護士は代理人として精力的に証拠を集め訴訟を展開した。

2007年7月13日、札幌地裁は訴えを退け、旧道路公団の責任を認めないという不当判決。
 遺族はただちに控訴。同時に、高裁での公正判決を求める署名活動を開始した。
 署名は短期間で9493筆もの協力が得られ、翌2008年1月札幌高裁に提出された。(北海道新聞 2007年7月1419日20日11月4日

2008年4月18日、札幌高裁は旧道路公団の瑕疵(かし)を認定する画期的判決を下し、高橋さんは逆転勝訴。しかし旧道路公団は不当にも上告。(2008年4月19 北海道新聞
 私たちは、高橋さんご夫妻の闘いを、最高裁判所への2500通の要請はがき活動などで支援。

2010年3月2日、最高裁は、原審の札幌高裁判決を破棄する不当判決。(2010年3月3日 北海道新聞

2 「ロードキル裁判」の闘い~札幌高裁~

2-1 高橋さんからの訴え(2007年9月)

署名にご協力をお願いします

 ロードキル(下記※参照)を原因として多くの人身・物損の事故が起きています。北海道内での死亡事故は最近では1994年に一人の方が犠牲となり、そして2001年に私共の長女・真理子が突然飛び出したキツネの為に自損事故となり、後続3台目の車に衝突され命を喪(うしな)いました。
 ロードキルは日本中の高速道路では年間約25000件、北海道では約1800件に及びます。この中の相当数の方が危険な思いをしている事は十分に考えられます。事故の多くは夜間に起きていますから、目撃者も無くただの運転操作ミスとして片付けられた死亡事故もあると推測できます。
 娘の事故現場付近(苫小牧西インターから東インター間、17.6キロ)に限っても、事故件数は2000年から2004年の5年間の平均で2~4件もありますので、北海道の高速道路全線になると相当な数になると思います。
 旧・道路公団は1983年に「高速道路と動物」に関する特別委員会を設け、1989年には研究成果を「高速道路と野生動物」という公団資料にまとめていました。この資料はその後も同公団、国土交通省(建設省)等が同様の研究資料の参考文献に使われています。
 この中で、中小動物であっても道路に侵入した場合、特に高速道路ではいかに危険であるかを指摘し、その対策は如何にあるべきかについて具体的に示しています。そして、この対策は私共がお会いし直接お話を伺った、数人の動物研究者の方たちも同じ意見でした。
 しかし、大変残念な事に少なくとも道央道では、その後の改修工事に際しこれらの資料はまったく活かされず、多額の費用をかけた柵の改良は、中小動物侵入防止にはまったく役に立たないものであったのです。
 私たちが起こした訴訟に対し、札幌地裁裁判官が下した棄却理由として、旧公団等が作成した資料にある中小動物対策(ある区間では実施し効果をあげている)の有効性を認めながら、それが相当程度「標準化されていない」などと公団の怠慢を庇護し、「費用がかかりすぎる」などと理由にならない事を並べています。
 いったい、命を守る対策に「費用」を考慮すること自体成り立つ議論なのでしょうか。言語道断と言わざるを得ません。
 「動物ならひき殺せ」に疑問符をもって起した訴訟でありますが、道路管理者の意識改革があれば高速道路上において、人の命も野生動物の命も護る事が出来ると今は確信しています。
 いつも亡き娘の「声」を聞きながら裁判をたたかってきました。人間の命も野生動物の命も守ってという「声」です。札幌地裁は聞き入れてくれませんでしたが、皆様のお力を貸して頂き、札幌高等裁判所裁判官には真実の答えを出して頂きたいと考えています。どうか署名にご協力をよろしくお願い致します。

※ロードキルとは
 動物が車の犠牲となって命を喪ったことをいいます。北海道では山を切り崩し、高速道路を建設した場所が多くを占め、それはとりもなおさず動物の棲みかを分断する事になっています。その為、子別れや給餌の為に道路を横断しようとした野生動物が道路に出てきて犠牲となり、それを原因として多くの人身事故や物損事故が起きており、命を喪う事故も起きています。

2007年9月 高橋 雅志、利子

関連の説明図【PDF】

2-2 高橋さんからのメール

 裁判の様子など、地元TV、HBCが昨夕「TheNEWS北海道」で詳しく放送しました。(後段に放送内容有り)また、今日の道新に第2社会面には「道央道キツネ避け事故死、3月2日に最高裁判決」との記事が出ています。多くの傍聴支援、本当にありがとうございました。以下は、高橋さんからのお礼のメールです。

 署名総数が6602筆になりました。12月3日に陳述書と共に裁判所に届けます。
 被害者の会はじめ全国の方々にお世話になりました。有難うございます。暖かいお気持ちに感謝いたします。今も署名は集まっています。現在2300くらい手元にあります。決して無駄にしません。
 署名活動を通じて、私は決して一人ではないと実感いたしました。
 知人友人を通じての訴えは、私の手を離れ多くの方が関心を示してくれ、日本中のあちこちから署名という形で励ましをいただきました。
 高裁の裁判官には正しい判断をしていただきたいと、これまで以上に強く願っています。

(2007年11月29日 高橋雅志・利子)

支援の皆様へ

 本日札幌高等裁判所において、控訴審の判決がありました。末永 進 裁判長は、はっきりとした力強い言葉で、旧日本道路公団(現在は東日本高速道路株式会社)の責任を全面的に認める判決を言い渡しました。
 大きな組織(国家賠償)を相手の裁判でしたから、半ばあきらめかけていた事もありましたから、裁判長の申し渡しの途中で身体の震えと涙がこみ上げ止まらなくなりました。
 青野先生はもとより、皆様のご協力とご支援があったから、と深く感謝申し上げます。相手側の上告が考えられますので、まだ道のりは険しいと思いますが、一石は投じられたと思っております。
 どうぞこれからもご支援をよろしくお願いいたします。

(2008年4月18日 室蘭市 高橋利子)

3 「ロードキル裁判」の闘い~最高裁~

3-1 上告が棄却されるべき理由

 不当にも旧道路公団は正義の高裁判決に対し上告してきました。
 私たちの思いは、最高裁小法廷で原告代理人の青野渉弁護士が論述した内容に尽きますが、旧道路公団の上告の不当性は以下の点からも明らかです。
 第一、本件は国家賠償法2条1項の「道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があったために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる」に基づく請求です。旧道路公団は、当時の道路管理に過失はなかったと主張しますが、そもそも国家賠償法2条の趣旨は、営造物(道路)の設置や管理の瑕疵は、設置者の行為の違法性や過失は問わず、客観的な「状態」によって判断されるものという判例もあります。当時の現場はフェンスの形状などからキツネが自由に出入りできる「状態」であり、ロードキルが多発(関連の説明図表【PDF】)し、それによる本件以外の死亡事故も起きていました。つい最近(2009年12月13日報道記事)にも、本件現場から20kmほど離れた道央自動車道で、動物を避けようとして自動車が横転し、7名が死傷するという悲惨な事故が起きていますから「営造物が他人に危害を及ぼす危険性のある状態」にあったことは明白です。

 第二、旧道路公団は、現場に設置された柵は全国においても標準的なものであり、瑕疵はないと主張しますが、道路公団自身1989年に「高速道路と野生動物」という研究資料をまとめ、中小動物であっても道路に侵入した場合、特に高速道路ではいかに危険であるかを指摘していました。旧道路公団は、事故の原因となるロードキルを防ぐ有効対策(キツネのように地面を掘る動物への対策として、下部のコンクリート化の必要:関連の説明図表【PDF】)を12年前から把握していましたが、少なくとも道央道では、その後の改修工事に際しこれらの資料はまったく活かされず、多額の費用をかけた柵の改良は、中小動物侵入防止にはまったく役に立たないものであったのです。(2006年5月20日「道新」記事参照)原審が認定しているように、旧道路公団に、予見可能性、結果回避可能性があったことも明白です。

 第三、付言するなら、国家賠償法2条1項に関するこれまでの最高裁判例が、河川等の「自然公物」と道路等の「人工公物」を明確に区別していることは重要です。

 すなわち、河川等の自然公物は「全国的に普及している程度の設備」を備えていれば瑕疵は否定され、予算上の制約を根拠とする免責は肯定されています。しかし、とりわけ高速道路など、もともと自然状態で公の用に供されているものでなく、ゼロから造りあげられた「人工公物」については、河川等とは異なり、その通常有すべき安全性はより高度なものが求められ、「標準化されていない」からとか予算上の制約では免責されないのです。

(サイト管理者)

3-2 緊急のお願い(2010年2月3日)

高速道路でのロードキル対策を怠り、高橋真理子さん死亡交通事故の原因となった旧道路公団の管理責任を明確にした札幌高裁判決を支持し、不当な旧道路公団の上告棄却を求める

最高裁への要請はがき運動にご協力ください

 2001年10月8日、道央自動車道でロードキル(動物が道路上で車に轢かれること)が第1原因の自動車事故により犠牲になった高橋真理子さんの両親が原告となった訴訟で、札幌高裁は、道路を管理する東日本高速道路株式会社(旧日本道路公団、以下「旧道路公団」)に瑕疵(かし)ありと認める貴重な判決を下しました
 しかし、旧道路公団は不当にも上告し、管理責任問題は最高裁での判断に委ねられています。そして最高裁小法廷は2010年1月26日に審理を行い結審、判決は3月2日です。私たちは、犠牲を無にせず、安全を最優先した道路管理を求める立場から、緊急に最高裁に対し上告棄却を求める要請はがきに取り組んでいます。ご協力をお願いします。

2010/2 原告の高橋雅志・利子さんからの訴え

 長く続く道のりに、亡骸となり物言えぬ真理子が流した血の涙を、そして、私の夢の中ですが、高速道路を見つめて何かを訴えるように立っていた真理子の姿を、私は忘れません。いつも真理子の「声」を聞き、真理子を感じながらこれまで歩んできました。「動物ならひき殺せ」に疑問符をもって起した訴訟でありますが、道路管理者の意識改革があれば高速道路上において、人の命も野生動物の命も護る事が出来ると今は確信しています。
 「人間の命も野生動物の命も守って」という「声」を、札幌高裁(末永進裁判長)は聞いて下さり、一審を覆して真実の答えを出していただきました。やっと開いた道を遮断して欲しくはありません。奪われた命を無駄にしたくないのです。最高裁小法廷において旧道路公団の不当な上告が棄却されることを心から願っています。
 皆様のお力を貸してください。全国からの「人が造った道路で、死傷事故は1件でも起こしてはならない」という当然の声を届ける要請はがきにご協力をくださるよう、切にお願い申し上げます。

2010年2月真理子の父母 北海道室蘭市 高橋 雅志・利子
支援者(交通犯罪遺族)札幌市   前田 敏章

参考

【参考1】ロードキルとは

 動物が道路上で車に轢かれる現象をいいます。北海道では山を切り崩し、高速道路を建設した場所が多く、それはとりもなおさず動物の棲みかを分断する事になっています。その為、子別れや給餌の為に道路を横断しようとした野生動物が道路に出てきて犠牲となり、それを原因として多くの人身事故や物損事故が起きています。ロードキルは日本中の高速道路では年間約25000件、北海道では約1800件に及びます。この中の相当数の方が危険な思いをしている事は十分に考えられます。事故の多くは夜間に起きていますから、目撃者も無くただの運転操作ミスとして片付けられた死亡事故もあると推測できます。
 本件の事故現場付近(苫小牧西インターから東インター間、17.6キロ)に限っても、事故件数は2000年から2004年の5年間の平均で2~4件もありますので、北海道の高速道路全線になると相当な数になると思います。

【参考2】一般道でのロードキル問題

 本訴訟の意義は高速道路の安全だけに留まりません。高速道路以外の一般道においてもロードキルによる人と動物の被害は深刻であるからです。確かに、一般道の全てに動物侵入の柵を設置することは不可能です。旧道路公団はこのことをもって公団側に瑕疵はないと「反論」もしています。しかし、高速走行が許されない一般道においては、速度抑制を徹底することにより、人もそうですが動物もロードキルの難を避けられるのです。野生生物研究家の小川巌氏は「スピードがそれほど速くなければ、動物は車を難なくかわせるのに、ある速度以上になると、難しくなる」(北海道新聞1996/4/8の「生きもの生活白書」)と述べて制限速度違反の危険性を厳しく指摘しています。頻繁に動物が飛び出す箇所は、単に注意喚起の看板を設置するのではなく、制限速度を他より下げなくてはならないのです。夜間の制限速度を昼間より下げるという方策もあると思います。
 真理子さんが身をもって訴えている「人間の命も野生動物の命も守って」という願いを、私たち一人一人が受け止める必要があると思います。一般道の制限速度にメリハリをつけて、60キロ以上の高速走行を認めるべきだなどという安易な議論は、この点からも大変危険であることもこの訴訟で問われているのではないでしょうか。

以上

3-3 全国からのご協力ありがとうございます(2010年2月27日)

 全国からの暖かい協力申し出など受け、2月26日現在、2438枚以上のはがきが最高裁に届けられる状況を作り出すことができました。うち450枚以上は道外からであり、南は宮崎県、福岡県の方からの協力もありました。ご協力に感謝致します。

★高校生から、最高裁へ意見

 私(前田)は先日、勤務する高校の理科の授業で、野生動物との共存というテーマも含めて、高橋さんの「ロードキル裁判」を取り上げた授業を行いました。授業後、何人かの生徒がレポートの中で意見を寄せてくれました。急遽最高裁裁判官に送付しましたが、一人の女生徒の声を紹介します。(2月25日送付分のレポート「ロードキル裁判の授業を受けて」の【PDF】はこちら

最高裁裁判官殿

3年氏名○○○○

 まだ世間が見えていない高校生の意見かも知れませんが聞いて下さると嬉しく思います。「人が造った道路で、人はもちろん、動物も殺してはいけない」と思います。
 旧道路公団の上告を棄却しなければ「自分の命を守るためなら動物も殺してかまわない」と、私はそうとると思います。
 それはあまりに人間勝手ではないでしょうか?
 人間が造る道路なら人間が責任をもつべきだと思います。
 この事故も人間が責任をもって、動物も人間も安全な道路を作っていれば起こることがなかったと思うのですが。私の意見はともかく、高橋さんの声は聞いてあげてください。お願いします。

★小学校5年生、Aちゃんの最高裁あての手紙

 また、以下に紹介するのは、札幌市内の小学5年生の女の子(Aちゃん)が最高裁の担当裁判官に宛てた手紙です。Aちゃんは、一生懸命に要請はがきの活動をするお母さんの姿をみて、自分の通っている小学校の先生に、はがきのことを依頼するなどしていましたが、直接気持を伝えたいということで、裁判官宛に手紙を書きました。(この手紙は2月22日に送付されています)

最高裁裁判官さま

 はじめまして 小学5年の○○です。
 この前、母に勧められて、北海道新聞の「きつね防止策生かせず」という記事を読みました。これを読んだ時の感想を伝えたくて手紙にしました。
 私は、ロードキル対策を怠った事が許せません。支柱間を×字に結んである簡易なものだからです。そのため、小動物が土を掘ったりして、道路上に出てくるのではないでしょうか? なのになぜフエンスをなおさないのですか? 旧道路公団が侵入防止対策をすれば高速道路でのこういう事故は起きなかったのだと思います。費用がかかったとしても、人の命を奪わないために、フエンスを直さなければいけないと思います。それが旧道路公団としての仕事ではないでしょうか?
 私の考えは間違っているでしょうか?
 考えてみてください。高橋真理子さんを自分だと思ってみてください。いのちはたった一つしかありません。フエンスを、今直さなければ沢山のいのちがまた奪われていきます。旧道路公団は、責任を負えますか?または、負うことができますか?
 高橋真理子さんは、こんなことにならなければ看護士としての人生がまだあったはずです。自分の家族や大切な人がこんな事故に巻き込まれてしまったとしたら、許せますか?
 もう二度とこういう事故が起きないようにしてください。私は、もう高橋さんのようなご遺族のような気持ちを誰にもさせたくありません。こんな気持ちにさせない方法は ただ一つです。高速道路のすべてのフェンスを見直してください。そして上告を取り消してください。この手紙を何度も読み返し、考えてみてください。お願いします。

以下は、高橋さんからのメールです。

 「2007年7月、札幌地裁の不当判決を受け、札幌高裁に上告したと同時に、署名活動をしました時には、皆様にご支援していただき勝訴しましたが、いままた最高裁に正当な判決をしていただきたく、前田さんの力強いご支援を頂き葉書による署名をさせてもらっています。
 皆様から温かいご支援が次々と寄せられていると聞きました。本当に感謝に耐えません。
 必ずこの思いは届くと信じています。

2月8日 室蘭市 高橋雅志・利子

3-4 最高裁は原審否定の不当判決

極めて不当です

 本日13:30、最高裁は旧道路公団側の上告を受け入れ、札幌高裁判決を破棄する判決を下しました。
後段に北海道新聞の記事
 先ほどHBCテレビは「THE NEWS」の道内ニュースの中で5分の特集(6:08~6:13)をして、高橋さんご夫妻の無念の涙とともに不当判決を報じました。ニュース映像は、現場の柵の様子、キタキツネの習性などの丁寧な説明もあり、説得力ある貴重な企画でした。しかし判決は、温かい血の通った人の判断とは到底思われない、不当で冷たいものでした。
 最高裁で弁論が行われるということは、原審(二審の札幌高裁判決)の見直しが通例である、とは聞いていましたが、「不当判決」を実際に知り、TV画面の高橋さんの涙を見て、また、強い憤りの気持で一杯になりました。一体どんな「理屈」をつけて公団側の「主張」を認めたのか・・・。
 こんな理不尽な司法判断を、私は絶対に認めません。高橋さんの闘いに、そして共感し賛同していただいた2500枚のはがきに関係した全国の心あるご支援に、大いなる勇気を与えられました。真実と正論は何よりも強く、いずれ勝つのだと思います。一歩一歩進めます。
 不条理な判決の背景には、クルマの効率的通行を優先し、交通死傷被害は仕方ないという人命軽視の「クルマ優先社会」の考えが根深くあると思います。
 真理子さんをはじめ、これまでの累々たる尊い犠牲を無にしないため、今回の司法判断が間違いであることをこれからも訴え続け、「交通死傷被害ゼロの社会」を作るための取り組み~全国の高速道路の安全対策を万全にさせ、野生生物との共存という視点からも中小動物侵入防止柵の整備を求める活動など~に繋げていきたいと考えています。
 要請はがき活動に、ご理解ご協力いただき本当にありがとうございました。

(2010年3月2日、サイト管理者)

3-5 手記 最高裁判決を終えて(高橋雅志・利子)

2010年3月 高橋雅志・利子

■ 不当判決

 2010年3月2日、旧日本道路公団に対する民事提訴以来5年半となる裁判を終えました。
 当日、最高裁判所第三小法廷の傍聴席最前列を、東日本高速道路関係の黒い背広姿がずらりと並び、それはまるで権力を誇示するように私達に威圧感を与え、恐怖でさえありました。
 「原判決中、上告人敗訴部分を破棄する」「被上告人らの控訴を棄却する」との判決主文。
 最高裁というところは我々一般人の常識が通じない所、という感覚を持っていましたから、ある程度の覚悟は出来ていたつもりでした。しかしながら、青野弁護士のお力で、法的にもまったく正当性のある訴えである事が明白でしたので、望みは捨てていませんでした。札幌高裁への差し戻しになって欲しい、或いは判決文の中に、これからの対策を促すような言葉が少しでも書かれていることを期待しましたが、結果は空しいものでした。最高裁とは何なのか? 法律に基づき正しい判断を下すところではないのか? 疑問が渦巻きます。

■ 娘の声を聴き、裁判を決意 不当判決

 この裁判中はもちろん、事故直後から私の中にはいつも「キツネならひき殺せばよかった」と言った警察官の言葉がありました。ためらわず、動物であれば轢き殺す覚悟を持って高速道路を走るべきである、と言いたかったのでしょうか。この言葉に、私はただただ後悔の念に苛まれました。動物が無残な姿で横たわる哀れさを、お互いが話した直後であったからです。本当にそれでいいのか? 多くの皆さんに考えていただきたい。その為には裁判しかない。固く決心しました。
 刑事裁判が終わる頃から少しずつインターネットを使い情報を得ていきました。そこでわかってきたのは「対策はあるかもしれない」という事と、おもに動物を愛する方々の、私が抱いている事と同じ想いでした。「想いを共有できる人がいる」。それはほんの一部であっても大いに力になりました。何としても裁判に訴えよう、それが純粋で正義を愛した亡き娘の意思であり、命を生かす事になる。そう決意しました。

■ 青野弁護士と支援の力で高裁勝訴

 私と夫の気持ちを理解してくださった青野先生は、「引き受けたからには精一杯やります」と言ってくださり、あらゆる手を尽くしてくださいました。このような難しく面倒な裁判に、徹底して闘ってくださった青野先生にはどれほどの感謝をしてもし尽くせません。
 地裁の不当判決には即刻控訴し、啓蒙の意味も込めて署名活動をしました。「高速道路ではこんな事が起こっています。どうか皆さん気をつけてください。そして対策はあることを知ってください。娘の事故を教訓としてください」と訴えましたが、この頃から賛同の声をかけていただくようになりました。そして、青野先生のお力と、署名にご協力くださった多くの方々のお陰で、札幌高裁では逆転勝訴しました。

■ 共感の輪の拡がり最高裁に全国から2500枚の要請はがき

 娘の事故後も高速道路でのロードキルが原因の死傷事故は、あちこちで起こっていることを知りましたが、道央道での事故を知る術はありませんでした。それだけに、昨年12月13日道央道で起きた小動物を避けたことが原因の死傷事故には、哀しみで愕然とし、やはりドライバーが気をつけていても危険な状況は確実に存在する、と改めて確信しました。
 司法が旧道路公団の責任を認めてくださる事が、ロードキルの本質を広く知っていただき、東日本高速道路が中小動物対策に真剣に取り組んでいただける事に繋がると考えてきましたが、公正中立であるべき最高裁は、私たちの訴えを退け、法ではなく権力を守りました。
 しかし、被害者の会の方々が中心となって活動をしてくださった最高裁への要請はがき活動には、北海道のみならず、全国の皆様からご協力と賛同の声を頂き、短期間で2500枚にも達し、投じた一石が幾重もの輪を描くように広がっていくのを感じる事ができました。それは最高裁での口頭弁論と判決に多くの方々が応援に詰め掛けてくださるという事にもつながり、東日本高速道路という権力と、最高裁という魔物のような所(私にはそう思えました)から守り、力になってくれました。署名のご協力のみならず、最高裁まで駆けつけてくださったご夫妻、様々なところでこの裁判の意義を訴えながら署名を集めてくれた皆様、最高裁へお手紙を出して小さいけれど大きな力となってくれた天使。本当に本当に有難うございました。皆様のこのご支援がなければまだまだ立ち直れない私がいたと思います。

■ 「人も動物も殺さないで」の声をこれからも

 ひるがえって考えて見ますと、この裁判の意義は十分に達せられたと思います。青野先生と皆様のお陰で、ロードキルについて多くの方に知っていただくことができ、「動物なら轢けばよい」という考えは間違っていることがはっきりしたからです。
 「人も動物も殺さないで」という亡き娘から託された「火」を消さない為、私に何が出来るのかまだ漠然としておりますが、将来へと繋がるお手伝いが出来たらと考えております。最後になりましたが、青野渉弁護士に、心からの尊敬と感謝を申し上げます。

(北海道交通事故被害者の会、会報32号より)

3-6 最高裁判所平成22年3月2日判決についての御報告

代理人弁護士 青野 渉

最高裁判決文

※判決文中の青文字はサイト管理者による

言渡 平成22年3月2日
交付 平成22年3月2日

平成20年(受)第1418号

判   決

上告人  東日本高速道路株式会社
同代表者代表取締役 ○○○○
同訴訟代理人弁護士 (5名)
被上告人  高橋 雅志
高橋 利子
上記両名訴訟代理人弁護士 青野 渉

上記当事者間の札幌高等裁判所平成19年(ネ)第247号損害賠償請求事件について、同裁判所が平成20年4月18日に言い渡した判決に対し、上告人から上告があった。よって、当裁判所は、次のとおり判決する。

主   文

原判決中、上告人敗訴部分を破棄する。
前項の部分につき、被上告人らの控訴を棄却する。
控訴費用及び上告費用は被上告人らの負担とする。

理   由

上告代理人水原清之ほかの上告受理申立て理由について

1 本件は、北海道内の高速道路において、自動車の運転者が、キツネとの衝突を避けようとして自損事故を起こし停車中、後続車に衝突されて死亡したことについて、上記運転者の相続人である被上告人らが、上記自損事故当時の上記高速道路の管理者であった日本道路公団の訴訟承継人である上告人に対し、キツネの侵入防止措置が不十分であった点で、上記高速道路の設置又は管理に瑕疵があったと主張して、国家賠償法2条1項に基づく損害賠償を求める事案である。

2 原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。

(1) Aは、平成13年10月8日午後7時51分ころ、北海道苫小牧市字糸井282番地74付近の高速自動車国道である北海道縦貫自動車道函館名寄線において、普通乗用自動車(以下「A車」という。)を運転して走行中、約100m前方の中央分離帯付近から飛び出してきたキツネとの衝突を避けようとして急激にハンドルを切り、その結果、A車は、横滑りして中央分離帯に衝突し、車道上に停止した(以下、この事故を「本件事故」といい、上記自動車道のうち本件事故現場付近の部分を「本件道路」という。)。そして、同日午後7時53分ころ、車道上に停車中のA車に後続車が衝突し、Aは、これにより頭蓋底輪状骨折等の傷害を負い、そのころ死亡した。

(2) 本件事故現場は、北海道苫小牧市の郊外であり、上記自動車道の苫小牧西インターチェンジと苫小牧東インターチェンジとの間の区間(以下「本件区間」という。)にある。本件事故現場の周囲は原野であり、本件道路は、ほぼ直線で、見通しを妨げるものはなかった。

本件区間においては、道路に侵入したキツネが走行中の自動車に接触して死ぬ事故が、平成11年は25件、平成12年は34件、平成13年は本件事故日である同年10月8日時点で46件発生していた。また、上記自動車道の別の区間で、道路に侵入したキツネとの衝突を避けようとした自動車が中央分離帯に衝突しその運転者が死亡する事故が、平成6年に1件発生していた。

(3) 本件道路には、動物注意の標識が設置されており、また、動物の道路への侵入を防止するため、有刺鉄線の柵と金網の柵が設置されていた。有刺鉄線の柵には鉄線相互間に20㎝の間隔があり、金網の柵と地面との間には約10㎝の透き間があった。日本道路公団が平成元年に発行した「高速道路と野生生物」と題する資料(以下「本件資料」という。)には、キツネ等の小動物の侵入を防止するための対策として、金網の柵に変更した上、柵と地面との透き間を無くし、動物が地面を掘って侵入しないように地面にコンクリートを敷くことが示されていた。

(4) 本件事故当時の本件道路の管理者であった日本道路公団は、平成17年10月1日に解散し、上告人が同公団の訴訟上の地位を承継した。

被上告人らは、Aの両親であり、相続人である。

3 原審は、上記事実関係の下において、次のとおり判断して、被上告人らの請求を一部認容した。
 高速道路の利用者は、一般道路に比較して高速でも安全に運転することができるものと信頼して走行していることからすれば、自動車の高速運転を危険にさらすことになるキツネが前記2(2)のような頻度で本件区間に現れることは、そのこと自体により、本件道路が営造物として通常有すべき安全性を欠いていることを意味する。動物注意の標識が設置されていることは、上記判断を左右するものではない。

 本件資料には、キツネ等の小動物の侵入を防止するための対策が示されていたのであり、それにより、かなりの程度キツネの侵入を防止することができた。以上によれば、本件道路には設置又は管理の瑕疵があったというべきである。

4 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。

 国家賠償法2条1項にいう営造物の設置又は管理の瑕疵とは、営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいい、当該営造物の使用に関連して事故が発生し、被害が生じた場合において、当該営造物の設置又は管理に瑕疵があったとみられるかどうかは、その事故当時における当該営造物の構造、用法、場所的環境、利用状況等諸般の事情を総合考慮して具体的個別的に判断すべきである(最高裁昭和42年(オ)第921号同45年8月20日第一小法廷判決・民集24巻9号1268頁、同昭和53年(オ)第76号同年7月4日第三小法廷判決・民集32巻5号809頁参照)。

 前記事実関係によれば、本件道路には有刺鉄線の柵と金網の柵が設置されているものの、有刺鉄線の柵には鉄線相互間に20㎝の間隔があり、金網の柵と地面との間には約10㎝の透き間があったため、このような柵を通り抜けることができるキツネ等の小動物が本件道路に侵入することを防止することはできなかったものということができる。しかし、キツネ等の小動物が本件道路に侵入したとしても、走行中の自動車がキツネ等の小動物と接触すること自体により自動車の運転者等が死傷するような事故が発生する危険性は高いものではなく、通常は、自動車の運転者が適切な運転操作を行うことにより死傷事故を回避することを期待することができるものというべきである。このことは、本件事故以前に、本件区間においては、道路に侵入したキツネが走行中の自動車に接触して死ぬ事故が年間数十件も発生していながら、その事故に起因して自動車の運転者等が死傷するような事故が発生していたことはうかがわれず、北海道縦貫自動車道函館名寄線の全体を通じても、道路に侵入したキツネとの衝突を避けようとしたことに起因する死亡事故は平成6年に1件あったにとどまることからも明らかである。
 これに対し、本件資料に示されていたような対策が全国や北海道内の高速道路において広く採られていたという事情はうかがわれないし、そのような対策を講ずるためには多額の費用を要することは明らかであり、加えて、前記事実関係によれば、本件道路には、動物注意の標識が設置されていたというのであって、自動車の運転者に対しては、道路に侵入した動物についての適切な注意喚起がされていたということができる。

 これらの事情を総合すると、上記のような対策が講じられていなかったからといって、本件道路が通常有すべき安全性を欠いていたということはできず、本件道路に設置又は管理の瑕疵があったとみることはできない。

5 以上と異なる原審の判断には、判決の結論に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり、原判決のうち上告人の敗訴部分は破棄を免れない。そして、被上告人らの上告人に対する請求は理由がなく、これを棄却した第1審判決は正当であるから、被上告人らの控訴を棄却すべきである。

 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

最高裁判所第三小法廷
裁判長裁判官  藤田 宙靖

裁判官  堀籠 幸男
裁判官  那須 弘平
裁判官  田原 睦夫
裁判官  近藤 崇晴

4 高橋さんの「闘い」を応援した高校生も不当判決に怒り(サイト管理者)

 なお、高橋さんご夫妻が青野弁護士のお力添えを得て、(また、この闘いを報じた北海道新聞などメディアのご理解も得て)闘い抜いた「ロードキル裁判」を、私(サイト管理者)は自身の勤務校の生物の授業でも取り上げました。
以下は、2011年2月25日札幌で行われた第10回「野生生物と交通」研究発表会(北海道開発技術センター主催)で報告した論考です。

ITTES第14号(remember-chihiro.info)(p4〜10)
「ロードキルが原因の交通事故をめぐる国家賠償裁判例を通して、高校生が学んだ野生生物と交通の課題」
(前田 敏章)

高橋真理子さん交通死事件・・・新聞報道を中心とした事件の経過

2001/10/09「北海道新聞」
分離帯に衝突 さらに車追突 道央道で女性死亡

【苫小牧】八日午後七時五十五分ごろ、苫小牧市糸井の道央自動車道で、札幌市北区麻生一、看護婦高橋真理子さん(34)の乗用車が中央分離帯に衝突した後、弾みで左側ガードレールにぶつかって停止したところに、後方から来た○○○○、会社員○○さん(33)の乗用車が衝突した。高橋さんは頭を強く打って間もなく死亡。○○さんの車に同乗の女性も顔に軽傷を負った。道警高速隊によると、高橋さんの車が道路上にいた動物を避けようとして中央分離帯に衝突したとの目撃証言もあり、調べている。

2006/02/22「北海道新聞」
高速の動物事故 キツネ横切り 娘死んだ 室蘭の夫婦 賠償求め訴訟

 動物が道路上で車にはねられて死ぬことを「ロードキル」という。その数は高速道路だけで、年間三万五千件に上るが、運転者である人間が死傷する例も少なからず起きている。事故で肉親を失った遺族は「徹底した対策を施してほしい」と訴えている。
 室蘭市内の高橋雅志さん(65)と利子さん(61)の夫婦は二○○一年十月八日の夜、苫小牧市糸井の道央道で、看護師だった長女の真理子さん=当時三十四歳=を事故で失った。
 原因は、車の前を右から左に横切ったキツネ。真理子さんがブレーキを踏んだか、ハンドルを切ったか不明だが、乗用車はスピンして中央分離帯に衝突し、そこに後続車が突っ込んだ。
 高橋さん夫婦は○四年九月、当時の日本道路公団(現在の東日本高速道路)がキツネの侵入防止対策をまったく取っていなかったとして、追突した運転者と同公団に対し、合わせて九千五百万円の損害賠償を求める訴訟を札幌地裁に起こした。裁判は今も続いている。
 代理人の青野渉弁護士によると、事故当時、事故のあった苫小牧東-同西インターチェンジ間(一七・六キロ)には、シカ対策用の有刺鉄線の柵しかなかった。事故の翌年に、同公団は有刺鉄線に五センチ間隔の鉄柵を入れるなどしたが、土を掘るキツネの習性に対応したものではなかった。
 青野弁護士は「この区間のキツネのロードキルは年間二十-六十件を数えるのに、十分な対策もせずに放置するのは無責任だ」と主張。高橋さん夫婦は「警察から『動物なら、ひけばよかった』と言われたが、人間の命も動物の命も同じ重さのはず。その命を守るための措置をしてほしいと求めているのです」と話している。
【写真説明】「動物が入らないようにしてほしいと、娘が高速道路を見つめている夢をみます」と語る高橋雅志さんと利子さん
【写真説明】亡くなった高橋真理子さん

2006/05/20「北海道新聞」
キツネ防止策、生かせず 旧道路公団、89年に作成済みだった

 高速道路に飛び出したキツネの侵入防止策が争点になっている死亡交通事故の民事訴訟で、旧日本道路公団(現・東日本高速道路)が事故の十二年前に防止策を研究してまとめたものの、対策に生かしていなかったことが、旧公団が提出した準備書面などで分かった。原告代理人の青野渉弁護士(札幌)は「生かされていれば、事故は起きなかった可能性が高い」と話し、東日本高速道路は「裁判の中で、こちらの主張を述べる」(道支社広報)としている。

 事故は二○○一年十月、苫小牧市の道央道で、札幌市北区の看護師高橋真理子さん=当時(34)=の乗用車が中央分離帯に衝突。後続車が突っ込んで、その衝撃で高橋さんが頭を強く打って死亡した。すぐ後ろの車の運転者が、道路を右から左に横切ったキツネを目撃していた。高橋さんが直後にブレーキを踏むか、ハンドルを切るかしたため、車がスピンした。
 訴訟は、室蘭市内に住む両親の雅志さん(65)、利子さん(61)が旧道路公団と追突した運転者に、合わせて九千五百万円の損害賠償を求めている。
十二年前の一九八九年に、旧公団が発行していたのは「高速道路と野生動物-人と動物の共存を目指して-」と題する資料(B5判、百十九ページ)。大学教授ら六人でつくる調査委員会が侵入防止策などを掲げた。

 キツネなど地面を掘る動物向けの柵の留意点として、「(柵の)接地面のコンクリート化が必要」「有刺鉄線型フェンスは中型以下の動物に対して、侵入防止の役をまったく果たさない」などと図を添えて指摘。事前計画段階での十分な検討、施工対策、事後の検証、改善といった検討サイクルの大切さも強調した。

 ところが、青野弁護士によると、少なくとも高橋さんの事故の現場付近はその前、動物が容易に出入りできる有刺鉄線があっただけだった。翌年に約九千万円かけて金網型フェンスに改修されたが、地面を掘る動物の対策はまったくとられていない。事前調査、事後の検証なども一切行われていないことも、被告側の準備書面で判明した。

 事故があった道央道の苫小牧東-苫小牧西インターチェンジ間では、車にひかれて死んだキツネの数が九九年二十五匹、二○○○年三十四匹、○一年六十九匹、○二年五十三匹を数え、これらの措置が効果をあげていないことを示している。
 東日本高速道路は裁判を理由にコメントを控えているが、母親の利子さんは「こうした調査・研究があったことにショックを受けている。その成果をなぜ実施してくれなかったのか。本当に悔しい」と話している。
<写真:高橋真理子さんの死亡事故の12年前に、動物侵入対策をまとめていた旧日本道路公団の資料のコピー>

2007/07/14「北海道新聞」
旧公団に責任なし 札幌地裁が賠償請求棄却 キツネ避け道央道事故死

 道央自動車道に飛び出したキツネを避けようとして事故死した女性の両親が、道路を管理する旧日本道路公団(現東日本高速道路)などを相手取り、総額八千九百万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が十三日、札幌地裁であり、坂本宗一裁判官は旧道路公団の責任を認めず、訴えを退けた。坂本裁判官は「中小動物の侵入防止用の柵を設置したり改修したりしなかったからといって、道路の安全性を欠いているとはいえない」と旧公団の過失を否定。旧公団が事故の十年以上前に動物侵入対策の研究成果をまとめながら、それを事故現場付近で実施していなかった-との原告の主張に対しては、「標準的なものとして、普及しているとは認められない」と指摘した。女性の乗用車に追突し業務上過失致死罪が確定している札幌市内の会社員(38)については、千九百万円の賠償を命じた。
 判決後、原告の室蘭市白鳥台四、無職高橋雅志さん(67)、利子さん(62)夫妻は地裁内で会見し、控訴する意向を明らかにした。
 雅志さんは「旧公団に何も責任がないと、どうして言えるのか。まったく不当な判決」と憤りをあらわにし、利子さんは「このままでは、娘の死が無駄になってしまう。旧公団は動物の侵入防止策を取ってほしい」と涙を浮かべて訴えた。
 一方、東日本高速道路道支社は「私どもの主張が認められたものと考えております」などとのコメントを発表した。判決などによると、高橋さん夫妻の長女真理子さん=当時(34)=は二○○一年十月、苫小牧市糸井の道央道で、路上に出てきたキツネを避けて、中央分離帯に衝突。二台後ろを走っていた会社員の乗用車に追突され、頭の骨を折るなどして亡くなった。
【写真説明】悲しみと憤りの表情で会見する原告の高橋さん夫妻

2007/07/19「北海道新聞」
娘の声を聞きながら ある交通死の裁判 上

高速道への動物侵入「旧公団は対策怠った」

 小さな遺影をハンカチにくるんで胸に抱いた。手首には、あの子が海外旅行の土産に買ってくれた腕時計をしていた。これまで二十回の裁判もずっと、そうやって一緒に見つめてきたのだ-。十三日午後、室蘭市の無職高橋雅志さん(67)と妻利子さん(62)は札幌地裁七階の法廷にいた。

*最期見てやれず

 裁判官が判決主文を早口で読みあげる。「原告らのその余の請求を棄却する」。二人が飲み込めないと思ったのか、裁判官は「旧公団の責任は否定しました」と念を押すように言った。二人の長女真理子さん=当時(34)=の車に追突した会社員には賠償を命じるが、道路を管理する旧日本道路公団(現東日本高速道路)の責任は認めないという意味だった。
 事故が起きたのは、二○○一年十月八日夜。判決によると、午後七時五十一分ごろのことだ。真理子さんは実家から、看護師として働いていた札幌に戻るため、道央自動車道を乗用車で走っていた。
 苫小牧市糸井にさしかかったとき、突然、前方にキツネが飛び出してくる。避けようとして、急ハンドルを切る。車は横滑りして中央分離帯にぶつかり、車体を横にして追い越し車線に止まった。二分後、そこへ、二台後ろを走っていた会社員の車が突っ込んできた。
 「娘はたった一人で逝きました。私も看護師をしていましたから、患者さんが亡くなる時はたいてい、家族に見守られて旅立つのを知っています。でも、私たちは最期を見てやれなかった」
 「あの子はなぜ、命を奪われなければならなかったのか。いつも考えています。せめて、娘のためにできることをしよう、その死を無駄にすまいと思いました」
 雅志さんと利子さんが旧道路公団を提訴したのは、事故からおよそ三年後、二○○四年九月だった。その訴えはこうだ。
 時速百キロ前後で車が行き交う高速道路にキツネが入り込めば、事故が起きることは予想できたのに、十分な対策を取らなかった。安全管理を怠った。これは、「動物が出てくる高速道路は危険だ」という当たり前の感覚が出発点になっている。

*有識者委も提言

 訴訟代理人を任された青野渉弁護士(36)=札幌市中央区=は精力的に証拠を集めた。旧公団に情報公開請求したところ、真理子さんが亡くなった道央道の苫小牧東-同西インターチェンジ間では、車とキツネの衝突が多発していた。
 旧公団が死体を回収した分だけで、一九九九年二十五件、二○○○年三十四件、事故があった○一年に六十九件、○二年には五十三件と、月平均二件以上を数える。なにより、旧公団は真理子さんの事故のずっと以前に、有識者六人による特別委員会を設けて、六年がかりで高速道路への動物の侵入防止策を検討し、八九年に「高速道路と動物」という冊子にまとめていた。そこでは、キツネのような土を掘る小動物に対して、目の細かい金網型の柵を、地面とのすき間なしに設置したり、地面をコンクリートで固めたりする方法を示している。
 しかし、事故の翌年、現場付近で行われた対策工事には、真理子さんの犠牲がありながら、それらが一切生かされなかった。雅志さんと利子さんは旧公団の考え方が理解できなかった。
 高速道路で娘を失った両親の裁判の軌跡を追った。(編集委員 村山健)
【写真説明】旧日本道路公団に対する賠償請求が棄却され、無念の表情で会見する高橋さん夫婦と青野渉弁護士(右)=13日、札幌地裁弁護士控室で

2007/07/20「北海道新聞」
娘の声を聞きながら ある交通死の裁判 下

旧道路公団の反論 人間味ない姿勢に憤り

 亡くなった娘のことを繰り返し言い立てられ、そのたびに、親としての後悔と悲しみがよみがえり、しかも、裁判はいつ終わるか知れない-。室蘭市の高橋雅志さん(67)と妻利子さん(62)はこの民事訴訟を起こすとき、そうした理由で「つらい思いをしますよ」と弁護士に言われたことを覚えている。二人は三年前、旧日本道路公団(現東日本高速道路)の管理責任を問う裁判を始めた。

*過失責任を指摘

 長女真理子さん=当時(34)=が二○○一年十月、道央自動車道でキツネを避けようとして事故死したのは、旧道路公団がキツネの頻繁な侵入も、その防止策も知りながら、放置していたからだと訴えた。旧公団は初めから、まったく責任がないと反論してきた。高橋さん夫婦を苦しめたのは、真理子さんにこそ、過失があるという旧公団側の言い分だった。それは表現を変えて、何度も指摘された。彼らの最終準備書面には、こうある。
 「減速など基本的措置をしなかったのは、危機回避の判断と行動に過失があったといわざるを得ない」
 「安全運転義務を怠る者までも、完全な道路施設の整備によって救済しなければ、管理瑕疵(かし)(欠陥)が問われるようなことがあってはならない」
 真理子さんをとがめる、そんな文章を読むたびに、二人は「あの晩、娘を引きとめればよかった、もっと話を聞いてあげればよかった」と次々にわき起こる悔恨で胸が張り裂けそうになった。

 そして、真理子さんは二度と戻らないという事実に打ちのめされた。旧公団はそれでも、「反撃」の手を緩めない。準備書面で、こんな主張を繰り返した。
 道内の高速道路は延長約五百四十キロ、上下線で千キロを超え、地形や動物なども多種多様だから、どんな動物がいつ、どこに出てくるかを予測するのは不可能だ。それを防げというのは過大な要求だ。もし、侵入防止策を道内全線で行えば、三十九億五千万円かかり、全国に広げると、「極めて莫大(ばくだい)な額に上る」。

*札幌高裁に控訴

 さらに、「本件事故の損害賠償責任を負うとの判例が確立されたならば、膨大な類似の訴訟が提起されることは必至であり、賠償金額も莫大なものとなるであろう」とまで言い切った。旧公団の人間味のない姿勢を、高橋さん夫妻は事故直後から感じていた。彼らは四十九日が明ける前に、真理子さんがキツネを避けて切ったワイヤの修理代を電話で請求してきたし、夫妻が事故の目撃者を探すため、パーキングエリアにポスターを張らせてほしいと頼んでも、「前例がない」と三カ月も認めなかった。二人は、そんな旧道路公団に変わってほしいと願う。

 「私たちはいつも、亡き娘の『声』を聞きながら、裁判をやってきました。人間の命も野生動物の命も守って、という声です。札幌地裁は聞き入れてくれませんでしたが、真実の訴えです。命のための高速道路ができるまで、私たちの裁判は終わりません」
 夫妻は来週にも、札幌高裁に控訴する。(編集委員 村山健)
【写真説明】刑事裁判から数えて4年余り。山のように集まった資料を読み返す高橋雅志さんと妻の利子さん

2007/11/4「北海道新聞」
公団の責任訴え 遺族が室蘭で署名活動 キツネ避け交通事故死

【室蘭】高速道路に飛び出したキツネを避けようとして長女が事故死したのは、動物の侵入対策を怠った旧日本道路公団(現東日本高速道路)の責任だとして、旧公団などを相手取り訴訟を起こしている室蘭市白鳥台四の無職高橋利子さん(62)が三日、同市内で裁判への理解と協力を求める署名活動を行った。
 高橋さんは正午すぎから商業施設入り口で支援者六人とチラシを配り、署名を呼びかけた。約一時間で百十六人の署名が集まり、今後の分と合わせ、今月下旬に札幌高裁に提出する。高橋さんは「公団は動物が原因となる事故を調査しており、危険性は把握していたはず」と指摘した。
 事故は二○○一年十月、苫小牧市糸井の道央道で長女が乗用車を運転中に発生した。夫妻は○四年九月に損害賠償を求め訴訟を起こしたが、札幌地裁は今年七月の判決で、「動物侵入防止用の柵を設置しなかったからといって道路の安全性を欠いているとは言えない」などとして、旧公団の責任を認めず訴えを退けた。現在、札幌高裁に控訴中。
[写真説明] 長女・真理子さんの死を無駄にしたくない、との思いで署名活動を続ける高橋利子さん

2008年4月19日「北海道新聞」
高裁で逆転勝訴判決

(1面)

 道央自動車道に飛び出したキツネを避けて事故死した女性の両親が、道路を管理する東日本高速道路(旧日本道路公団)などに、総額約八千九百万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が十八日、札幌高裁であった。末永進裁判長は、「事故当時、キツネは頻繁に道路上に現れており、道央道は安全性を欠いていた」として、事故防止策が不十分だったと認定。同社への請求を棄却した一審札幌地裁判決を変更し、同社と女性に追突した男性に対して計約五千百万円を賠償するよう命じた。(解説、関連記事35面)
原告代理人の青野渉弁護士によると、高速道路への動物侵入防止対策について、同社の過失を認めた判決は高裁段階では初めて。訴えていたのは、事故死した高橋真理子さん=当時(34)=の両親の雅志さん(67)、利子さん(63)=室蘭市=。
 判決によると、真理子さんは二〇〇一年十月、苫小牧市糸井の道央道で、路上に出てきたキツネを避けて中央分離帯に衝突。後続の男性の乗用車に追突され、死亡した。
 高速道路の安全性について、高裁判決は地域の実態を重視。キツネが車にはねられるケースが、事故現場付近では〇一年に六十九件あったことから、「高速運転を危険にさらすキツネが頻繁に路上に現れることは、道路が通常有すべき安全性を欠いている」と判断した。その上で、この地区で中小動物の侵入防止柵を設置していなかった同社に、事故発生の責任があると認定した。
 一審判決は「侵入防止柵設置は全国的に普及していたとはいえず、道路管理に瑕疵(かし)はなかった」として同社の責任を否定し、男性にのみ千九百万円の賠償を命じていた。東日本高速道路北海道支社は「判決内容を詳細に吟味した上で対応する」などとコメントした。

(同35面)

キツネ回避事故死判決 「娘の命 報われる」 両親、遺影抱く手に力

 札幌高裁の末永進裁判長が「東日本高速道路の責任を認めました」と述べるのを、父は泣きながら聞いた。母は、ハンカチにくるんだ遺影の娘を胸に抱きしめた-。十八日、東日本高速道路(旧日本道路公団)を相手取った損害賠償請求訴訟の控訴審で、室蘭市の高橋雅志さん(67)と利子さん(63)は、逆転勝訴の喜びをかみしめた。(1面参照)
 長女真理子さん=当時(34)=が、苫小牧市内の道央自動車道で亡くなってからおよそ七年。「人の命も、動物の命も大切にする高速道路にしてほしい」と願って、同社を提訴してから三年半がたっていた。
 裁判所内で会見した高橋さん夫妻は涙で目を真っ赤にしながら、「一万人の方たちが支援の署名をしてくれた。娘の友人をはじめ、多くの人たちに支えられた」「これで、真理子の命が少しでも報われる」と語った。しかし、雅志さんは「『お父さん、ただいま』と言って、真理子が帰ってくるわけではないんだと思うと、素直に喜べない」と胸のうちを明かした。
 真理子さんの部屋は、七年前のままにしてあるという。その自宅に戻った夫妻は仏壇に手を合わせ、「真理子のような事故が二度と起きないように、高速道路で動物の侵入対策が早く行われますように」と祈った。 東日本高速道路が上告するとみられることについて、原告代理人の青野渉弁護士(札幌)は「上告されれば、この判決が最高裁で確定することを切望する」と語った。
【写真説明】亡くなる直前に撮影した真理子さんの遺影を手に、裁判所内で会見する高橋利子さんと雅志さん=18日午後4時半

運転者の目線で判断

(解説)

 キツネノ侵入をめぐり、高速道路の安全管理が問われた損害賠償請求訴訟の札幌高裁判決は、一般の運転者の常識に沿って、高速道路のあるべき姿を示したといえる。判決は、キツネがしばしば出没する高速道路は、通常求められる安全性を欠いているーと明確に述べた。時速百㌔前後で車が往来する高速道路にキツネが入り込めば、車の運転が危険になるのは当然だ。しかし、1審は(1)キツネいつ、どこから入り込むか予測できない(2)道内の高速道路の全線に対策を施すには多額の費用がかかるーなどとして、この常識を退けていた。高裁判決は、事故があった区間では、キツネが車にひかれて死ぬ「ロードキル」が事故前後の4年間だけでも年間25-69件と多発し、キツネの出没は「十分に予見可能」と判断した。防止策に単純計算で498億円かかる「予算上の制約」についても、国道の落石事故などに関する最高裁判例を引いて、1審判決を否定。高速道路は河川などと違って、初めから予測される危険に対応した安全性を備えるべきで、予算がかかるというのは免責の理由にならないとした。
 東日本高速道路によると、高速道路のロードキルは全国で年平均34、000件に達する(2000-04年)。運転者が死傷する事故も起きている。同社は今判決によって、野生動物の侵入対策に本腰を入れるよう求められる一方で、1審で主張した「膨大な類似の訴訟が提起されるのは必至であり、賠償額も膨大なものになる」恐れが、さらに増したともみえる。(編集委員 村山健)

【関連記事】2009/12/13「北海道新聞」
小動物避けようと? 道央道でワゴン車横転 1人死亡、1人重体 千歳

【千歳】13日午前2時5分ごろ、千歳市北信濃の道央自動車道で、札幌市手稲区前田4の12、会社員北林祐治さん(45)のワゴン車が路外に逸脱し道路脇の斜面に乗り上げて横転。同乗の男女6人のうち、後部座席の札幌市白石区東札幌3の3、会社員渡辺幸恵さん(44)が車外に投げ出されて全身を強く打ち、間もなく死亡、同区本通1、会社員佐々木樹里さん(25)が頭などを打ち、意識不明の重体となった。また、北林さんら5人も腕や足などに軽傷を負った。
 道警高速隊によると、北林さんは「飛び出してきた小動物を避けようとした」と話しており、同隊が事故原因を調べている。7人は札幌市内のエステ会社に勤務しており、派遣された登別市内の温泉宿泊施設から札幌に帰る途中だったという。

2010/03/03「北海道新聞」
道央道でキツネ避け事故死 旧公団に管理責任なし
最高裁判決 両親が逆転敗訴

 2001年、道央自動車道でキツネを避け事故死した女性の両親が、道路管理者の東日本高速道路(旧日本道路公団)に損害賠償を求めた訴訟の上告審で、最高裁第3小法廷(藤田宙靖裁判長)は2日、旧公団に約5100万円の賠償を命じた二審札幌高裁判決を破棄、両親の請求を棄却する逆転敗訴の判決を言い渡した。原告は事故死した高橋真理子さん=当時(34)=の両親の雅志さん(69)、利子さん(65)=室蘭市=。
 判決で、藤田裁判長は現場付近ではキツネが自動車にはねられる事故が年間数十件発生していたが、それが原因で運転者が死亡する事故は発生していないと指摘。「死傷事故の発生する危険性は高くなく、通常は運転者の適切な操作で回避できる」と述べた。
 また、現場には動物注意の標識も設置されており、「運転者には動物への適切な注意喚起もされていた」と認定。原告側が主張した、小動物の侵入を防げる金網型フェンスの設置については「多額の費用がかかるのは明らか。全国の高速道路で広く採用されていた事情はない」とし、「これらの事情を総合すると、旧公団の道路管理に欠陥はない」と結論づけた。
 一、二審判決によると、真理子さんは01年10月、苫小牧市糸井の道央道で、路上に出てきたキツネを避けようとして中央分離帯に衝突。後続の男性の乗用車に追突され、死亡した。一審札幌地裁判決は旧公団の責任を否定。しかし、二審判決は現場付近にキツネが頻繁に現れていたことを重視し「事故防止策が不十分だった」と旧公団の責任を認めた。一方、追突した男性には、既に両親に対し、約2600万円の支払いを命じる判決が確定している。

*安全確保に努める

東日本高速道路北海道支社の話 弊社の道路管理に問題はなかった、との私どもの主張が認められたものと考えている。今後とも引き続き安全で円滑な交通の確保に努めたい。

*両親「本当に残念」

 両親の訴えは届かなかった。最高裁が2日、道路管理者の責任を認めない判断を示し、両親は「本当に残念」と無念さをにじませた。午後2時すぎ、最高裁前。亡くなった高橋真理子さん=当時(34)=の両親は判決後、代理人の弁護士とともに姿を現した。父の雅志さんは「仏壇の前で何と報告していいか分からない」と言葉を詰まらせた。
 2004年の提訴後、両親は地元の室蘭市内など街頭で署名活動を重ね、集まった署名は1万人を超えた。最高裁判決前にも約2500人の賛同者が、旧公団の責任を認めるよう裁判官に求めるはがきを郵送。この日も真理子さんの遺影を胸に抱いた友人ら大勢の支援者が見守った。
 だが、願いはかなわなかった。雅志さんは近年も同様の死傷事故が起きていることを挙げ、「娘のような事故を繰り返してほしくない。安全な高速道路をつくって」と祈るように訴え、母の利子さんも「これからも(道路の安全性について旧公団に)働きかけていきたい」と語った。
【写真説明】娘の遺影を胸に抱きながら、無念の思いを語る利子さん(右)と雅志さん

-相互支援の記録(2000〜2013)
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