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「11時間」~ お腹の赤ちゃんは「人」ではないのですか ~
江花優子著 小学館 2007年 7月
北海道交通事故被害者の会の世話人でもある細野雅弘さん一家が被った交通死傷事件を、フリーライターの江花優子(えばな・ゆうこ)さんが取材し、胎児の人権問題として世に訴える力作。最初のレポートは「女性セブン」2006年3月23日号。見出しには「妊娠31週での事故、帝王切開で生まれたわが子は11時間で死亡。『殺人罪』を訴える遺族の叫びに、あなたはどう答えるーーー」とあった。交通犯罪被害者が受ける不条理を、その柔らかな感性で真摯に受け止め、鋭い知性で緻密に調べ上げたレポートは、その年の小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。そして作品は、さらに加筆され、テーマは絞り込まれ、「人の命を尊ぶことの真の意味」を問う本書となって現れた。
未来と希望、その全てを理不尽な交通犯罪によって奪われた亡き娘と共に「命の尊厳」をと訴える私にとっても、「11時間」は新たな活動の勇気、生きる力を与えてくれる。是非ご購読を。(07/07/27前田)※細野さんの事件の札幌地裁判決の記事は→2005/11/13「毎日新聞」
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北海道新聞、2007年7月22日、「ほん」欄より
訪問 「11時間」を書いた 江花優子さん
サブタイトルは「お腹(なか)の赤ちゃんは『人』ではないのですか」。二○○三年十二月に札幌で起きた交通事故を題材に、胎児の人権を問う渾身(こんしん)のリポートで、小学館ノンフィクション大賞優秀賞受賞作。「胎児はいつから“人”となるのか。多くの人に問題を知ってほしい」
「胎児の人権」を問題提起
札幌市の自営業細野雅弘さん(33)が同市内で乗用車を運転中、ハンドル操作を誤った対向車と衝突。細野さんと、同乗の妊娠八カ月の妻が負傷、帝王切開で生まれた女児が十一時間後に死亡した。○五年十一月、札幌地裁は胎児を妻の「身体の一部」とし、加害男性に業務上過失致傷の罪で、禁固二年、執行猶予四年の判決を下した。
江花さんは致死罪を問えないことに疑問を持ち、週刊誌の仕事で夫婦を訪ねた。亡くなった女児の写真に「まゆ毛もしっかりして、ほっぺたもぷくっと膨れている。この子をなぜ司法が人ではないと決めるのか」と衝撃を受け、胎児の人権について、さらに深く知りたいと考えた。
本書では「胎児は人間ではないのか」という夫婦の思いのほか、札幌地裁判決について、医師や刑法学者、宗教家らの見解を詳述した。刑法上は、母体から胎児の体の一部が露出した段階を出生とするのが通説。しかし、医師は「三十週を過ぎれば早産というだけで、きちんと育つ。医療の世界では、胎児は確立された“人”」とし、医療の進歩と法律論とのズレが浮き彫りになる。
人工妊娠中絶せざるを得なかった女性や、望まぬ妊娠をした女性の出産を支援する市民団体の活動も取材。さまざまな立場から、胎児の命の重みを考える構成にした。○六年六月、交通事故で妻が負傷、事故後に出生した男児が死亡した裁判で、静岡地裁浜松支部が加害者に業務上過失致死傷罪を言い渡した、全国初とみられるケースも紹介した。
「立場や人によって命の考え方が違い、取材すればするほど迷い、難しさを感じた。問題提起と受け止めてほしい」。取材を受けた細野さんは「亡くなった子供への責任感から問題を訴えてきた。五官に訴えるよう書かれた本なので、読んだ人に(理不尽さを)実感してほしい」。
大阪府生まれの三十三歳。高校卒業後、編集プロダクションを経て、現在はフリーライターとして雑誌などに執筆。東京都在住。(小学館 1575円)
東京社会部 栗山麻衣