相互支援の記録(2000〜2013)

【No.002】 北広島市土場俊彦君事件、関連記事 06/03/24

2006年3月24日

土場俊彦君交通死事件の記録
報道を中心に

最新の報道  2007/7/15 更新

[toc]

法務省が法定利率(現行、年5%)を引き下げるとの方針!!

 2007年7月15日付け読売新聞は、1面トップで、民法に定める法定利率を、市中金利に合わせて改正(引き下げる)する方針を固めたことを報じました。(下記)
 交通事故被害者の逸失利益算出に著しく公平を欠く現行法の矛盾に、正面からとりくみ最高裁までたたかったのが、北広島市の土場さん夫妻です。下記記事の「解説」にある、2005年6月の最高裁判決を報じた記事はこのページの後段にあります。(05/06/14報道記事にジャンプ
 亡き俊彦君の願いの一つが、ご両親の尽力でようやく陽の目を見ようとしています。

2007年7月15日 読売新聞

現法定利率引き下げへ 現行5% 変動型も視野 民法改正方針

 法務省は民法で定める法定利率を、現行の年5%から引き下げる方針を固めた。低金利時代を踏まえ、市中金利との乖離(かいり)を是正するのが狙い。引き下げ幅や変動型か固定型かなどについて検討を進め、早ければ2009年の通常国会で法改正したい考えだ。

逸失利益算出など影響

 法定利率は、民法404条で、「利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率は、年5分とする」と規定され、金銭貸借などの契約で、利息をつけることになっているのに、具体的な利率が決まっていない場合に適用している。損害賠償金など法律上発生した債権に加算される遅延損害金、不正利得を悪意で得た受益者がその利得を返還する場合につける利息にも適用される。

 企業間の特許侵害など巨額の損害賠償を求める民事裁判では、金利差が大きいため、賠償金を早く手にするより、法定利率を適用した遅延損害金を受け取る方が有利なため、権利者側が意図的に交渉を長引かせる弊害も出ている。

 死亡交通事故の被害者が生涯で得られたはずの逸失利益を算出する際に、決定額は法定利率で運用されたと仮定し、その利息分を支払い時に差し引いている。

 例えば、未成年の死亡交通事故の被害者が18歳から49年間働き約1億3800万円を稼ぐと仮定した場合、年5%の利息分を差し引いて3310万円のみを支払うとの判決が出ている。

 適用利率が低ければ、遺族が受け取る賠償金は多くなるため、識者や遺族の間には「低金利時代なのに年5%もの高利運用の見通しは立たず、被害者に厳しすぎる。現状との乖離を見直すため、法定利率の見直しが必要だ」の声がある。

 また、利息制限法の上限を超える高金利で支払った「過払い金」の返還に利息がつくかどうかが争われた訴訟では、13日の最高裁判決で、貸金業者が悪意で得た不正利得に当たるとして、年5%の法定利率を適用すべきとの判断を示した。法定利率は、1896年の制定時から1世紀以上も改正されていない。
【解説】(同紙2面)

法定利率引き下げへ 事故遺族の救済 期待

 法務省が法定利率引き下げの方針を固めた背景には、死亡交通事故の被害者の逸失利益から差し引く利息の利率に、年5%の法定利率を適用すべきだとの初判断を示した2005年6月の最高裁判決がある。
 それまでの下級審判決では、被害者に配慮し、差し引く利息額を低くするために2~4%の利率を適用する例もあった。だが、最高裁判決は「賠償額の算出にあたって、裁判官ごとに判断が分かれることを防ぎ、被害者間の公平を確保する必要がある」との理由から、統一基準として法定利率を採用。以後、被害者を保護する観点から法定利率の見直しを求める声が強くなっていた。法定利率の引き下げは、災害や事故などの被害者遺族の救済につながることが期待されている。
 法務省では今後、定期的な民法改正で法定利率を見直していく(固定型)のか、変動利率を政省令で定め、経済情勢に合わせて適宜変動させていく(変動型)のかなど、具体的な制度設計を急ぐ方針だ。(政治部 久保庭総一郎、本文記事1面)

※ 土場さんのコメントが届きました。なお、末尾には青野弁護士の一文があります。

 「俊彦のために立ち上がらざるをえなかった裁判で、最高裁にて判断を仰いでも、被害者の声は届きませんでした。その際、次は立法措置しか手段はないな、と感じておりましたが、国のほうで先に腰をあげたのは、驚きと共にやってきた事の成果が別の形で現れたのかなと感じております。この件についてお悩みの多くの被害者、遺族の方々に少しでも光が当てられて、亡き人々の尊厳が少しでも回復されることを願っております。 7月31日 土場一彦」

以下はこれまでの全経過です

2001/08/19「北海道新聞」
「YOSAKOI踊るのを楽しみに…」北広島で小学生交通死 夏休み最後の思い…

「YOSAKOI踊るのを楽しみに…」*北広島で小学生交通死*夏休み最後の思い出が暗転
【北広島】「祭りでYOSAKOIを踊るのを楽しみにしていたのに…」。十八日午後、北広島市の市道で軽乗用車にはねられ死亡した土場俊彦君(9つ)はこの日午前、地元の祭りで披露する踊りの練習で、仲間に元気な姿を見せたばかりだった。祭り出場を翌日に控えた訃報(ふほう)に仲間や学校関係者は言葉を詰まらせた。

 土場君が通う緑陽小は二十一日が始業式。三、四年生約五十人は夏休み最後の思い出にと、JR北広島駅前で始まった「北広島ふるさと祭り」のYOSAKOIソーラン踊りに参加するため、十八日午前は学校で練習し、土場君は陽気な性格で練習を引っ張っていたという。四人は練習後、一度帰宅し、祭り会場で遊ぼうと再び外出したところだった。

 学校から約三百メートルの現場には、タイヤやフレームが折れ曲がった自転車が数メートルおきに転がり、通報した自営業の男性(42)は「大きな音で振り向くと、子供がはね飛ばされていた。うめいて倒れていた」と青ざめた表情で語っていた。
 同小は事故後、祭りの参加中止を決定。秋沢裕教頭は「踊りを楽しみにしていたのに残念。学校近くで何でこんな事故が…」と動揺を隠せない様子で、土場君と同級生の娘を持つ公務員の男性(37)は「サッカー少年団で活躍して、活発な子だった。先日もうちに来て、今朝も練習で会ったので娘はショックを受けている」と言葉少なだった。

2001/10/12「北海道新聞」夕刊
ブレーキと誤りアクセルを踏む 小学生死傷事故 北広島

 今年八月、北広島市で自転車の小学生四人が、歩道を暴走した軽乗用車に相次いではねられ、死傷した事故で、札幌厚別署は十二日までに、軽乗用車を運転していた同市内の女性会社員(50)を業務上過失致死傷の疑いで書類送検した。
 調べによると、女性会社員は八月十八日午後一時四十分ごろ、同市緑陽町一の市道で、軽乗用車を運転し歩道に乗り上げ約六十メートル暴走し、自転車の同市山手町四ノ二、土場俊彦君(9つ)をはね死亡させ、三人に重軽傷を負わせた疑い。同署によると、ハンドル操作を誤り、歩道に乗り上げた女性会社員は、ブレーキを踏もうとして誤ってアクセルを踏み暴走したという。

2002/10/04「北海道新聞」朝刊
北広島の4小学生死傷事故 容疑者、業過致死傷で在宅起訴

両親「交通殺人訴える」事故現場に石碑建立「死、無駄にしないで」

【北広島】昨年八月、北広島市緑陽町一の市道で、歩道上を暴走した軽乗用車が自転車に乗った小学生四人をはねて死傷させた事件で、札幌地検は三日までに、軽乗用車を運転していた同市の女性(51)を業務上過失致死傷の罪で札幌地裁に在宅起訴した。死亡した同市山手町の土場(どば)俊彦君=当時(9つ)=の両親は「裁判を通じ、俊彦の死は事故ではなく、交通殺人であることを明らかにしたい」と訴える。(札幌圏部 大倉玄嗣)

■歩道上で次々と

 昨年八月十八日午後一時半ごろ、土場一彦さん(44)の長男俊彦君は市内の祭り見物に行くため、友人三人と自転車で歩道上を走っていた。そこに歩道上を暴走してきた軽乗用車が正面から突っ込んだ。俊彦君は全身を強く打ち間もなく死亡。他の三人も重軽傷を負った。
 起訴状などによると、軽乗用車を運転していた女性は脇見運転でハンドル操作を誤り斜行し、アクセルとブレーキを踏み間違え、二十センチの段差がある歩道に乗り上げ、歩道上を五十メートル走って四人を次々とはねたという。「俊彦は安全な歩道にいた。通り魔殺人と何が違うのか。交通死すべてを交通事故と称して、車であれば人を殺しても罪にならない社会はおかしい。俊彦は交通犯罪で殺されたんです」。土場さんは肩を震わせる。

■厳罰化の直前に

 悪質運転を厳罰化した危険運転致死傷罪が盛られた改正刑法の施行は昨年十二月。俊彦君の事件は旧法が適用される。土場さんは昨年十月から今年三月までに計七回、札幌地検に「改正刑法なら危険運転致死傷罪に該当する事件。量刑上限の厳罰求刑を」などとする上申書を提出。地検による再捜査も要望した。同地検は今年四月、現場で実況見分を行った。
 業務上過失致死傷での起訴率は低い。「自分で行動しなければ、起訴されたかどうかも分からない」と土場さんは振り返る。起訴の通知を受け取った日、土場さんは俊彦君の仏壇に報告した。「ようやくスタート地点だ」と。今月中には加害者を相手取り、損害賠償訴訟を起こす。警察や検察の捜査の詳細を知るためという。

 建設コンサルタント会社の技師だった土場さんは事件後、会社を辞めた。妻の久美子さん(37)は悲しみのあまり、俊彦君の後を追いかねない精神状態だったという。土場さんも胸の圧迫や手の震えが続く。俊彦君の無念をはらし、交通犯罪をなくす運動を支えに一年を過ごした。

■花、今も絶えず

 土場さんは今年五月、俊彦君が命を奪われた現場に高さ約三十センチの石碑を建てた。上部に俊彦君の顔写真、側面に刻まれた文は「僕の死を無駄にしないで。大好きな友達やみんなが安心して暮らせる町にしてください」。俊彦君の友人たちが供える花やジュースなどは途絶えたことがない。
 緑陽小五年一組には、花が飾られた空席が一つ。俊彦君の同級生が「一緒に進級して、卒業したい」と願い、実現した俊彦君の席だ。
【写真説明】俊彦君が命を奪われた現場。見通しのよい直線道路。ガードレールは事件後、北広島市が設置した

2002/11/12「北海道新聞」夕刊
4児死傷事故 女性、起訴事実認める
札幌地裁初公判 夫「実刑を望む」

 北広島市で昨年八月、小学四年の男児四人が乗用車にはねられて死傷した事故で、業務上過失致死傷の罪に問われた同市内の無職女性(51)の初公判が十二日、札幌地裁(森島聡裁判官)であり、女性は起訴事実を認めた。罪状認否、冒頭陳述に続いて女性の夫が証人として出廷。事故後に女性が手首を切って自殺未遂を図ったこと、一年以上たった今でも自宅に閉じこもりがちなことなどを証言した上で「刑務所で反省し、考える機会を与えてほしい」と実刑を望む真情を吐露した。
 この日の法廷では、男児の両親が遺影とともに傍聴し、審理を見守った。
 起訴状によると、女性は昨年八月十八日、同市内の市道を乗用車で走行中、ハンドル操作を誤って歩道に乗り上げ、自転車に乗っていた男児四人を次々とはねた。この事故で同市内の土場俊彦君=当時(9つ)=が出血性ショックで死亡し、三人がけがを負った。

2002/12/13「北海道新聞」朝刊

《 北広島の4児死傷事故 法定上限年数の禁固5年を求刑-札幌地裁 》

 北広島市で昨年八月、小学四年の男児四人が乗用車にはねられ、一人が死亡、三人が重軽傷を負った事故で、業務上過失致死傷の罪に問われた同市内の無職女性(51)の論告求刑公判が十二日、札幌地裁(森島聡裁判官)であった。検察側は法定刑の上限年数である禁固五年を求刑した。判決は二十六日。
 論告で検察側は「重大で悲惨な事故。歩道で自転車に乗っていた被害者には何の落ち度もなく、脇見運転が原因で歩道に乗り上げ数十メートルも走行した過失は極めて悪質である。被告は事故後、不誠実な態度に終始し、被害者は厳罰を望んでいる」と指摘した。
 弁護側は起訴事実を認めたうえで「強い批判は免れないが、被告は事故を苦に自殺を図るなど反省しており、寛大な判決を求める」と述べた。起訴状によると、女性は昨年八月十八日、同市内の市道を乗用車で走行中、歩道に乗り上げ、自転車に乗っていた男児四人を次々とはね、死傷させた。この事故をめぐっては、死亡した男児の遺族が女性らを相手取り、「月命日」に三十年にわたって慰謝料を分割払いすることなどを求める損害賠償請求訴訟を、同地裁に起こしている。

《 異例の重い求刑 交通犯罪厳罰化映す 》

 北広島市の四児死傷事故で業務上過失致死傷罪に問われた無職女性に対し、検察側は十二日、禁固五年を求刑した。同罪の法廷刑は五年以下の懲役、禁固または五十万円以下の罰金。極めて重い求刑は、遺族の被害感情や、交通犯罪の厳罰化を求める声の高まりを反映したといえそうだ。
 事故で長男の土場俊彦君=当時(九つ)=を亡くした父一彦さん(四四)は閉廷後、「検察は遺族感情をくんで、法の枠内で限度いっぱいの求刑をしてくれた。判決では軽減してほしくない」と話した。有期刑で、法定の上限年数求刑は極めてまれ。
 「同じ犯罪で、より悪質な事例が出てくる場合を想定しているため」(元検事)だ。にもかかわらず今回、上限年数の求刑になった背景について、事故被害者の支援活動に携わる松本誠弁護士(大阪)は「これまでの量刑は軽すぎた。近年、被害者側が納得せずに声を上げるようになり、量刑は確実に重くなっている」と分析。「五年という求刑は、一人が亡くなった事故としてはこれまでで最も重いのでは」と話している。

 北海道交通事故被害者の会でも支援を行っていた、北広島の土場さんをはじめとする事件について、検察は12日札幌地裁での論告求刑で、業禍の上限禁固5年を求刑しました。
 事件以来の長期にわたる土場さんをはじめとする血の滲むようなとりくみと訴えが検察にも届いた結果と思われます。
 第1回公判から傍聴しましたが、途中から事故の様子を「覚えていない」と供述を翻すなど、反省の姿勢などみじんも感じられない被告に対し、12月5日の2回目の公判では遺族の土場さんと被害者家族計3人が傍聴者らの胸を強く打つ意見陳述を30分にわたって行いました。検事の論告内容もこれらの訴えを取り入れた意義あるものでした。
 また、地元紙の報道にもあるように、危険運転致死傷罪新設の意義を反映させ、交通犯罪撲滅の視点から厳罰化をと訴えた多くの声が反映された求刑でもあると思います。判決は12月26日ですが、裁判所が求刑通りの判決を出すことを願うのみです。(2002/12/13 前田)

2002/12/26「北海道新聞」夕刊
被告の主婦に禁固2年6月  北広島4児死傷事故-札幌地裁

 北広島市内の市道で昨年八月、小学四年の男児四人が乗用車にはねられ一人が死亡、三人が重軽傷を負った事故で、業務上過失致死傷の罪に問われた同市山手町四、無職鈴木はる美被告(51)の判決公判で、札幌地裁は二十六日、禁固二年六月(求刑・禁固五年)を言い渡した。
 検察側は「極めて悪質な過失」として法定刑の上限年数を求刑していたが、森島聡裁判官は「過失は重大で刑事責任は重く実刑が相当。死傷者数などが同種の事例の量刑との均衡などを総合的に考慮した」などと量刑理由を述べた。

 判決によると、鈴木被告は昨年八月十八日、同市内の市道を乗用車で走行中、脇見運転でハンドル操作を誤り、さらにアクセルとブレーキを踏み間違えて歩道に乗り上げ、自転車に乗っていた男児四人を次々とはね、同市内の土場俊彦君=当時(9つ)=を死亡させ、三人に重軽傷を負わせた。
 検察側は、厳しい遺族感情や交通犯罪に対する厳罰化の流れから、前例のないほど厳しい求刑で踏み込んだ判決を求めたが、判決は「量刑の相場」を重視したとみられる。亡くなった土場俊彦君の父一彦さん(44)は閉廷後、「求刑の半分というのは残念。せめて五年に近い判決を出してほしかった。法律の厚い壁があって仕方がないのかもしれないが、被害者の思いはなかなか反映されないと感じた」と話した。
 この事故をめぐっては、土場君の遺族が女性らを相手取り、「月命日」に三十年間にわたって慰謝料を分割払いすることなどを求める損害賠償請求訴訟を同地裁に起こしている

地裁判決を受けて

2002/12/29 土場一彦

 地裁での判決は判決理由にある悪質性が何ら反映された量刑でなく、求刑の半分にしか満たない禁固2年6ヶ月の裁判官の判断は被害者家族の思いを大きく裏切るものでした。
 この判決が俊彦の奪われた命の重さや大きな障害を被った3人の友達の被害の大きさに見合うような量刑でないことも当然ですが、事件の悪質性に鑑み検察庁が業務上過失致死罪での上限、禁固5年の求刑をしたことの意味を全く無視した判断をしたことに強い衝撃を受けています。
 刑事裁判における量刑や刑罰が私達の心を癒すことなどありません、まして、奪われた俊彦の命が戻る訳でもありません。しかし、悪質な交通犯罪を裁くハードルが低くなって、この犯罪の抑止に大きな働きと成ってくれることが、俊彦に託された私達家族の努めと信じています。控訴して上級審の判断を仰いで頂くようを強く求めたいと思います。

 もとより、この罪状で裁かれること自体私達の本意ではありませんが、せめて事件の真相を公判において明らかにすること、それを俊彦に報告することが私達に課せられた彼の願いだとも信じてきました。しかし、私達が知り得た事実も被告の責任逃れの『覚えていません』という証言の前には無力であるという現実が横たわっていました。真実が知りたいという思いさえも厚い法の壁に阻まれた虚しさを強く感じさせられました。
 俊彦が遭遇した今回の事件は、自ら擁壁に衝突して自損事故と出来たものを、あえて子ども達に向かってハンドルを切り、その後何の回避行動もとらずに歩道上を五十メートルも暴走して次々と子ども達を跳ね飛ばす、という悪質な交通犯罪で単なる過失の事故ではありません。しかし、車であれば事故として捜査された上、何も言えずに亡くなった被害者の尊厳や権利は軽んじられ、加害者の証言に基づく権利だけが突出して守られています。市民を守るべき法律が犯罪者の擁護だけにあるようにさえ感じます。

 車優先の経済社会では事故は社会の必要悪であるように盲信され、被害者も事故という名で括られるが故に、耐えることを強いられます。その渦中に置かれた遺族は、大切な命を奪われた悲しみに追い打ちをかけられるような不条理に苦しめられます。事故と犯罪は異なるのだということ、それを曖昧にして事故や犯罪の抑止を叫ぶのは本質を捉えていないことを当事者として強く感じています。

2003/01/08「北海道新聞」朝刊
「量刑軽い」と検察側控訴-北広島の4児殺傷事故

 北広島市内で男児四人が乗用車にはねられ死傷した事故で、札幌地検は八日、業務上過失致死傷の罪に問われた同市山手町、無職鈴木はる美被告(51)に対し禁固二年六月を言い渡した札幌地裁判決を不服として、札幌高裁に控訴した。
 一審で禁固五年を求刑していた同地検は「歩道に乗り上げた後も走行を続けるなど、犯行態様は極めて悪質で、判決の量刑は軽い。厳罰を求める被害者側の感情も考慮した」としている。
 一審判決などによると、鈴木被告は二○○一年八月十八日、北広島市内の市道で乗用車を運転中、脇見運転をして歩道に乗り上げ、小学四年の男児四人をはね、一人を死亡、三人に重軽傷を負わせた。

2003/07/16「北海道新聞」朝刊
二審も禁固2年6月 北広島4児死傷事故

 北広島市内で小学四年の男児四人がはねられ一人が死亡、三人が重軽傷を負った事故で、業務上過失致死傷の罪に問われた同市山手町四、無職鈴木はる美被告(52)の控訴審判決公判が十五日、札幌高裁であった。仲宗根一郎裁判長は禁固二年六カ月(求刑・禁固五年)とした一審・札幌地裁判決を支持し、検察、被告双方の控訴を棄却した。
 法定刑の上限年数を求刑した検察側は「一審判決は量刑不当」と控訴していたが、裁判長は「軽すぎて不当とは言えない」とし、弁護側の「過失認定に事実誤認がある」との主張も退けた。

2003/11/26「北海道新聞」夕刊
月命日の支払い命令
小4事故賠償 札幌地裁判決 6万円ずつ30年

 北広島市で二〇〇一年、小学四年の男児四人が乗用車にはねられ一人が死亡、三人が重軽傷を負った事故で、亡くなった土場俊彦君=当時(9つ)=の両親が乗用車を運転していた同市内の女性(52)=業務上過失致死傷の罪で禁固二年六カ月確定=を相手取り、約七千六百万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が二十六日、札幌地裁であった。
 寺西和史裁判官は原告側が求めた慰謝料の分割払い(金利等を加えた額)を認め、被告に対し、三十年間、土場君の月命日(十八日)に六万円を支払うよう命じる判決を言い渡した。また慰謝料を除く損害賠償金として、被告に約三千二百万円の支払いも命じた。
 判決によると、事故は〇一年八月十八日に発生。女性の運転する乗用車が歩道に乗り上げ約五十メートル走行、自転車に乗っていた男児四人を次々とはねた。この事故で、土場君は出血性ショックで死亡した。父一彦さん(45)と母久美子さん(38)は昨年十一月、事故で尊い命が失われた事実を忘れてほしくない、などとして提訴。両親は土場君の死に伴う逸失利益などの損害額を約七千六百万円と算定。逸失利益か慰謝料かいずれかを分割払いにするよう求めていた。

2003/11/27「北海道新聞」朝刊
男児交通死 一方的な過失 謝罪は不十分
慰謝料認定 札幌地裁、判決で指摘

 北広島市で二〇〇一年八月、土場俊彦君=当時(9つ)=が乗用車にはねられ亡くなった事故をめぐる二十六日の札幌地裁民事訴訟判決で、寺西和史裁判官は「加害者の一方的過失で被害者はわずか九歳。あと七十年くらい人生があったはずだ。加害者は被害者に十分な謝罪を行っていない」と述べ、慰謝料二千二百万円などを認定した。
 寺西裁判官は、原告の土場君の両親が訴えた「事故で尊い命が失われた事実を忘れてほしくない」との趣旨をくみ、運転していた同市内の女性(52)=業務上過失致死傷の罪で禁固二年六カ月確定=に対し、三十年間、土場君の月命日(十八日)に六万-六万二千円を支払うよう命じた。

2003/12/24「北海道新聞」朝刊地方<札幌圏この1年 8>
2男子の交通死
悲劇伝え事故根絶を痛む胸仏前に誓い

 いすの下にしまった黒色のランドセル、小さな上履き。学習机には「四年」という自筆の丁寧な文字が残るノート。子供部屋には、そこで勉強し、サッカーが大好きで、同級生の真ん中にいた元気いっぱいの少年の息づかいがあった。

 部屋の持ち主は二○○一年八月、北広島市の市道の歩道を自転車で走行中に乗用車にはねられて死亡した小学四年の土場俊彦君=当時(9つ)=。十二月上旬、父の自営業一彦さん(45)、母の久美子さん(38)を訪ねた。事故をめぐる民事訴訟の札幌地裁判決が、乗用車を運転していた同市内の女性=業務上過失致死傷の罪で禁固二年六カ月確定=に対し、三十年間、土場君の月命日(十八日)に六万円支払うよう命じた直後だった。
 部屋にあった上履きは事故直前のヨサコイ踊りの練習で履いていたものだという。一彦さんは「今もいつも息子を感じている」と話した。本来なら土場君は来春、小学校の卒業式を迎える。失われた尊い命と癒えぬ悲しみ。耳の奥がじーんと熱くなった。

 札幌市白石区の音喜多一さん(50)には、経営するレストランの休み時間に話を聞かせてもらった。昨年七月、長男で中学二年の康伸君=当時(13)=が市道の横断歩道を自転車で横断中、トラックにはねられて死亡した事故で、トラックを運転していた男性の禁固一年六カ月の実刑判決がこのほど確定した。

 事故は、一さん念願のその店が開店して一年足らずで起きた。康伸君は閉店後に店の仕事を進んで手伝う少年だった。土場君の両親をはじめ、取材で出会った遺族が強調するのが、交通事故は「家族を失う悲しみ、そしてその後、真相を知らされないことで二重に苦しめられる」ということだ。最愛の家族の尊厳にかけて、事故の状況を知りたい。でも、警察が作成する実況見分調書などは捜査段階では見ることができない。
 音喜多さんは「交通事故で、なぜ死ななきゃいけなかったのか。息子の名誉と尊厳にかけて真実は何かを知りたいと思ったら、声を上げてこなければならなかった」と振り返る。だから、遺族は調書の早期開示を求める活動を続ける。

 交通事故は絶えることなく新たな悲劇を生んでいる。遺族の悲痛な思いに胸が締め付けられるとともに、記者をはじめとするドライバーは被害者にも、加害者にも、なり得ることを痛感する。交通事故の悲惨さを伝えて事故をなくしたい。記者がそう誓った土場君の仏前には、今も遊びに来る同級生が供えたおもちゃがあふれていた。(藤田香織里)

2004/01/20「北海道新聞」朝刊地方

<いのち ありがとう>
 命へのたくさんの思いをしたためた読者からの手紙を掲載する「いのち ありがとう」の二回目は、突然亡くしたわが子に向けた父の思いを紹介します。(随時掲載します)

亡き息子へ
せめて夢で会いたい たくさんやりたいこと 何も果たせず悔しいね

俊彦へ
 俊、君の九年七カ月の一生は父さんの人生のたった五分の一の時間ですが、父さんにとって君といた時間が生きている時間でした。「父さんの息子でいてくれて本当にありがとう」と最初に言いたい。ヒマワリのような君の明るい笑顔に父さんたちはもう会うことができません。二○○一年の夏、君は友達と一緒に祭り見物に出掛ける途中に事件に遭遇しました。「明日は遊べないから、友達とお祭りを見に行って来る」と、得意げに出かける姿が今もまぶたに張り付いている君の最後です。なぜ帰ってこないのか。なぜ呼んでも返事をしないのか。なぜ触れることができないのか。どこにいるのか。父さんも母さんもお姉ちゃんも、分からなくてさまよっていました。

 せめて夢の中で会いたいと願っても、君は父さんたちのところには来てくれませんね。父さんたちがいつも悲しくて泣いているからですか。理不尽な死に怒っているからですか。父さんが一生懸命に事件の原因を調べても、君に伝えられなかったからですか。背の順で一番前に近かった君は、体の大きな友達に混ざっても負けなかったね。スキーも得意だったし、運動会では毎年リレーの選手だった。ドッジボール大会で友達の輪の中の君は輝いていました。

 三年生から入団したサッカー少年団も、とっても頑張っていましたね。選手になって、試合で走り回る君を応援するのがとてもうれしかった。君は、吹雪の日も一日も休まずに真っ暗な夜道を一人で歩いて通いました。ある日、友達に「こわいから家まで送って」と言われ、いつもより遅く帰ってきた事があったね。帰ってきて「僕も暗くてこわかったのに」とつぶやいていた君。そんなやさしくて強がりの君が父さんは大好きでした。

 別れの日、君のひつぎに入れたユニホームの背番号23番はチームの永久欠番になったんだよ。疲れて机に突っ伏しても、鉛筆を離さずに頑張った塾の算数、一度始めた事を最後までやり通す頑張り屋の君の姿もいつもいつも頼もしく思っていました。君にはたくさんやりたいことがありました。札幌ドームでワールドカップを観戦したかったこと。友達ともっともっと遊びたかったこと。サッカーをもっと練習してコンサドーレの選手になりたかったこと。家族で釣りやキャンプに行きたかったこと、お姉ちゃんと一緒に中学や高校や大学に行きたかったこと。その他のいっぱいの望みを何も果たせなかったこと、すごく悔しいね。

 君を守ってやれなかったこと。君の将来を応援できないこと。君に会えなくなってからの時間が重なっていくこと。すべてがとても苦しくて悲しくてたまりません。今もお参りに来てくれる友達の中に君を捜します。その中で君は何を感じていますか。君の瞳にはどんな未来が映っていたのですか。どうか父さんの夢の中で教えてください。

*歩道暴走の車にはねられ
 二○○一年八月十八日、土場俊彦君=当時(9つ)=は、北広島市内の歩道で自転車に乗っていたところを暴走車にはねられ、亡くなった。その時、北海道新聞はその事故を五百十七文字の記事で伝えた。だが、残された者の苦しみと悲しみは終わりなきほどに続く。父、一彦さん(45)は無念の思いを手紙に書いた。

2004/07/16「北海道新聞」夕刊全道
月命日払いを控訴審も認定 北広島の交通事故

 北広島市で二○○一年に小学四年生の男児四人が乗用車にはねられ一人が死亡、三人が重軽傷を負った事故で、亡くなった土場俊彦君=当時(9つ)=の両親が、乗用車を運転していた同市内の女性(52)=業務上過失致死傷罪で禁固二年六カ月が確定=に約七千六百万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が十六日、札幌高裁であった。末永進裁判長は、一審の札幌地裁判決を一部変更し、慰謝料を除く損害賠償額を約三千三百万円に増額する判決を言い渡した。慰謝料の「月命日払い」は一審通り認めた。
 一審判決は、原告が求めた慰謝料の分割払い(金利を加えた額)を認め、被告に三十年間、土場君の月命日(十八日)に六万円を支払うよう命じた。さらに慰謝料を除く損害賠償金として、被告に約三千二百万円の支払いも命じた。
 一審判決によると、女性は二○○一年八月十八日、北広島市内の市道を乗用車で走行中、アクセルとブレーキを踏み間違えるなどして歩道に乗り上げたまま約五十メートル走行し、自転車に乗っていた男児四人を次々はねた。土場君はこの事故で出血性ショックで死亡。両親は事故で尊い命が失われた事実を忘れてほしくないと、月命日払いなどを求めて提訴した。

民事裁判控訴審を終えて

2002/8  北広島市 土場 一彦

 交通事件の遺族が提訴する民事裁判は損害賠償請求訴訟となり、結果として賠償額の大小を争う訴訟に帰着します。その結果(命を金銭で購う行為)自体に虚しさが伴い提訴する意志や目的さえ見失うことが、多くの遺族の置かれた精神状態です。

 私達家族も息をすることさえ苦しい中で、何に対峙すべきか途方に暮れていました。ただ、私達は事件の真相についての正しい司法判断を求めること、不条理に奪われた命を軽んじる社会の認識に対しても、公的な手段で結果を残して示すことが、当事者としての責務、息子への責任だと考えてこれまで民事裁判に臨んで参りました。
 民事裁判控訴審の判決(札幌高裁7月16日)を受けた現時点の思いを、経過を含めて述べさせて頂きます。

■ 事件への思い
 私達の長男 俊彦が遭遇した事件は、2001年8月18日に3人の友達と出掛ける途中の歩道上で起きた出来事です。子供達は歩道上を自転車でゆっくりと走行していましたが、対向して上り坂の車道を走行してきた加害者の車が20cmの段差の歩道に乗り上げ、進行方向前方の擁壁への衝突を敢えて避け、子供達に向かってハンドルを切り、ブレーキも踏まずに子供達を次々と跳ね飛ばし、50mあまりも歩道上を暴走して街路樹に衝突しやっと停止する、という態様の事件でした。加害車両は歩道に乗り上げてからも何の回避行動もとらず、乗り上げた地点から30m以上も先の子供達に向かっていくという、まさに通り魔のような悪質な事件でした。このことによって、俊彦は2時間後に9歳7ヶ月の短い生涯を終わらされ、友達は後遺障害を残す重傷を負わされたのです。 この様な態様の事件も車であるが故に、事故として捜査された上、刑事裁判では加害者の証言に基づく実況見分を拠り所に審議が進められました。一方、刑事裁判控訴審では目撃者による再実況見分が証拠として追加されましたが、それぞれの調書での衝突箇所が30mも違うものであるにもかかわらず、被告の『覚えていない』『悪質な事故じゃない』という証言や権利だけが突出して守られ、一審での判決以上の判断はされませんでした。結局、どうしてこのようなことが起こりうるのか、という真相を俊彦に報告できずに刑が確定してしまいました。この点で刑事裁判は被告が述べる事実を裁く機会で、被害者が納得できる真相とはかけ離れたものでした。

■ 民事裁判の目的
 私達が民事裁判で求めたものは、事件態様に関わる事実、真相の追求です。加害者からの事件の説明が一切ない上、刑事裁判での公訴事実が極めて希薄であった為、自ら原告として尋問を行って真相を俊彦に報告したかったからです。また、不条理に命を絶ちきられた俊彦の可能性を示談という交渉で決めつけられることは、親として出来ることでは有りませんでしたし、命を安易に扱う誤った社会の認識を変えなくては、交通事件を取り巻く状況も何も変わらないと考えたからに他なりません。
このため、命の尊厳が軽んじられて、遺族の思いが無視されている現状の損害賠償の仕組み自体を変える事も大きな目的としました。

■ 提訴の内容
 亡くなった者への賠償は、現行の裁判所の判断からすると逸失利益、慰謝料、積極賠償(葬儀費用等実費)で構成されます。私達はこの大枠の仕組みの中で提訴の目的を反映させる為、以下の内容で主張を行いました。

逸失利益-逸失利益とは生きていれば将来働いて得られたであろう賃金ということですが、一時金として賠償される場合、利息控除が為されます。この点の係数である中間利息控除率を法廷利息率5%ではなく3%適用を求めました。

慰謝料-定期金賠償として30年間月命日毎に慰謝料の分割支払いを求めました。

上記の点は、現在被害者が経済的負担を強いられている、かつ命の尊厳を軽んじている最大の問題を改善する手段で、は奪った命に生涯かけて向き合ってもらう手段であると考え、悪質な事件の真相に対する判断と共に、仕組みの改正に対する判断を求めたのです。

■ 民事判決結果の要旨
 民事裁判では私的鑑定結果・被告人尋問・原告(本人)尋問を通して、私達が知り得る真相についての判断を求めて故意に匹敵する事件の悪質性を主張しましたが、実は踏み込んだ判断は避けられました。この点で納得出来ない思いを抱えていますが、一審・控訴審を通じて、逸失利益算定における中間利息控除率3%の適用、慰謝料の30年間月命日毎の分割支払いが認められる判決が得られました。現状の損害賠償の仕組みを改善するという点で、高裁において初めて下された画期的な判決でしたので、提訴の目的はある程度果たされたと感じていました。しかし、控訴審判決後、被告からの上告を受け、審理が最高裁へと移されることとなっています。

■ 控訴審判決後の思い
 前述の経過を辿って民事裁判の控訴審判決に至りましたが、被害当事者が判決までを求めて係争を続けることは大きな精神力が必要です。
 刑事裁判では賠償が保証されていることが情状酌量の手段に使われるのに、その実態は被害者・遺族をさらに追いつめるような不条理の中にあります。そのことに向き合うことは当事者にしか分かり得ない苦しみの連続です。俊彦への思い、それだけが残された親である私達の支えでした。またこの間に、中村誠也、青野渉両弁護士のサポートが無ければ、提訴した時の意志を維持することも難しかったように思います。
 今は、俊彦の為に、多くの被害者の為に、最高裁においても価値ある判決に結びつくように、精一杯向き合っていきたいと思っています。

「北海道交通事故被害者の会」会報15号(2004/8/10)より

札幌高等裁判所、平成16年7月16日(土場さんの民事)判決について

2004/8   弁護士 青野 渉

 今回の土場さんの事件の判決は、2つの点で、被害者にとって意味のある判決だと思います。

1 慰謝料の月命日払い判決について

 一つ目は、慰謝料を、30年間月命日ごとの定期金分割支払いの命令を認めている点です。死亡した人の損害賠償について、民法は、金銭賠償の原則を定めていますが、具体的な支払方法について、一括払いにするか、分割払いにするかは、特に定めていません。したがって、被害者側が、加害者に事件を忘れて欲しくないという気持ちから命日支払を希望する場合には、裁判所は、そのような原告の希望を否定することはできない、として今回の判決は命日払いを認めました。

 交通事故の場合には、被害者は事故のことを忘れられずに苦しむ一方で、加害者のほうは刑事手続さえ終われば賠償問題は保険会社任せで、事故のことを忘れてしまい、自分が被告である民事裁判にもまったく出頭しないというケースが大半です。命日支払の判決は「保険で払うから、それで被害者に対する責任を果たしている。」という加害者(あるいは一般社会)の考えに対し、一石を投じるものだと思います。

2 逸失利益の算定について

 二つ目は、賠償金の算定方法に関する裁判基準を変える判断です。岩波新書に「交通死」という本があります。この本は、娘さんを交通事故で亡くされた経済学者の二木先生が、被害者を無視してすすめられる刑事事件、民事事件の経験を通じて、裁判所や弁護士や保険会社のあり方を鋭く批判している本です。もし、お読みでない方がいれば、是非、一読をおすすめします。二木先生は、民事裁判を弁護士をつけずに闘ったそうです。この本は、弁護士にとっては、とても「耳の痛い話」がたくさん書いてあります。そのうちの一つが、裁判所と弁護士が作った「賠償額算定方式」の「ひどさ」です。私は6年前にこの本を読んで以来、多くの裁判で、賠償額算定方式の「ひどさ」を訴えてきましたが、なかなか認められませんでした。今回、はじめて高等裁判所でこれを認めていただくことができました。

 この問題は、一般の方にはなかなかわかりにくいのですが、とても重要な問題ですので、若干説明させていただきます。
 現在の裁判では、死亡事故による損害賠償の中心は「逸失利益」(亡くなった方が生きていれば一生涯に得られたと思われる所得のこと)です。しかし、裁判所の行う逸失利益の算定方法は、実は、とても不合理な方法なのです。
 例えば、10歳の男の子が死亡した場合、普通の裁判官は、次のように計算します。まず、統計資料に基づいて被害者の「平均年収」を決めます。例えば、統計資料による男子労働者平均賃金が500万円であれば、平均年収を500万円として、18歳から67歳までの49年間にわたって、500万円ずつの年収が得られたと考えます。次に、死んだことによって「生活費がかからなくなった。」ので、この分は差し引きます。男子の場合は50%とされています。ですから、18歳から67歳まで、250万円ずつの損害が発生した、と考えます。

 ここまで書くと、「逸失利益」は、250万円×49年間=1億2250万円と思うかもしれませんが、そうではありません。亡くなった男子が実際に収入を得るのは将来のことです。将来もらうべきお金を、今もらってしまうと、そのお金を定期預金などで運用して、その利息分だけ、被害者が「得をする。」と裁判所は考えるのです。そこで、裁判所は利率を5%複利として、250万円から差し引くのです。このように利息を差し引くと、例えば、18歳のときの収入250万円は8年分の利息を差し引いて約169万円、40歳のときの収入250万円は30年分の利息を差し引いて約58万円と換算されます。要するに、58万円を30年間運用すれば250万円になる、と考えるわけです。こうして換算すると、18歳~49歳の全逸失利益は、合計約3228万円になります。

 この計算、どこかおかしくないでしょうか?

 一つ目は、利息の利率です。被害者は、本当に年5%で運用できるでしょうか?銀行の定期預金に預けても金利は0.1%にも満たないのです。ところが、裁判所は「被害者は5%複利で増やすことができる」と考えて差し引くのです。裁判所は、不可能なことを被害者に命じているのです。

 二つ目は、賃金水準です。例えば、昭和40年の統計では男子の年収は70万円ほどでした。したがって、当時10歳で、脳障害で1級の後遺症を負ったAさんのケースで考えてみると、Aさんは、18歳から67歳まで年収70万円だという前提で計算されます。しかし、例えば、平成12年には、Aさんは45歳になりますが、平成12年の賃金センサスでは、男子の平均年収は560万円なのです。裁判所は、昭和40年の時点で「あなたの年収は一生70万円です。」と決めてしまっているのです。

 これは、誰が考えてもおかしなやり方です。土場さんの裁判では、二木先生にもお願いして、意見書を書いていただき、「いままで裁判所のやってきた方法はおかしい。」と訴えました。その結果、高等裁判所では、運用利率を従前の裁判基準の5%ではなく、3%で判断したのです。これにより、逸失利益の額は、従前の裁判基準の約1.7倍となりました。

 高等裁判所で3%を運用利率とする判断がなされたのは全国初です。これは死亡の場合だけではなく、後遺症の場合の逸失利益の計算でも、将来の介護費用の計算でも、同様であり、その意味でも、画期的な判断です。

3 遺族が民事訴訟をする意味について

 交通事故の民事訴訟は、遺族にとってはとても辛いものです。遺族はお金が欲しいわけではなく、「賠償金請求訴訟」をすることは、遺族にとっては、時として、不毛なことに感じられると思います。
 しかし、保険会社の提示する金額は、裁判所の基準よりもさらに低く、私の経験の範囲で申し上げれば、裁判基準の半分くらいのことが多いのが事実です。そして、「事故をゼロにするためにかかるコスト」よりも「年間1万人の賠償金を払うコスト」のほうが「安上がり」だという認識が、保険業界や自動車業界、さらにはクルマ優先の社会全体にあるように思えてなりません。これは異常なことです。命を安くみるから、安全が軽視されてしまうのではないでしょうか。

 土場さんのご遺族は、事故の真実を知りたいと思って、民事裁判を闘ってきました。大変辛い裁判だったと思います。しかし、失われた命を安くみることで成り立っているクルマ優先社会に警鐘を鳴らすという意味で、大きな意味がある裁判だったと思います。加害者側が上告したので、この問題は、はじめて、最高裁判所で審理されることになりました。

「北海道交通事故被害者の会」会報15号(2004/8/10)より

2005/04/05「北海道新聞」朝刊全道
北広島の事故死賠償
加害者の上告を受理 二審判決見直しか

 北広島市で二○○一年、小学四年生の男児四人が乗用車にはねられ一人が死亡、三人が重軽傷を負った事故で、亡くなった土場俊彦君=当時(9つ)=の両親が乗用車を運転していた女性(53)=業務上過失致死傷罪で禁固二年六カ月が確定=に約七千六百万円の損害賠償を求めた訴訟で、最高裁第三小法廷(金谷利広裁判長)は四日までに、賠償額を不服とした女性側の上告を受理し、上告審の弁論期日を二十六日に指定した。二審判決が見直される可能性がある。
 二審札幌高裁判決は、女性に慰謝料(六万円)の月命日払いを三十年間続けるよう命じたほか、被害者の逸失利益(想定される生涯収入など)を計算する際の「中間利息控除率」を加害者に有利な5%でなく、実質金利を考慮して被害者に有利な3%と判断し、慰謝料以外の損害賠償額を約三千三百万円とした。

2005/04/27北海道新聞
小4逸失利益算定 利息控除率で弁論
北広島交通死訴訟

 北広島市で二○○一年、小学四年生の男児四人が乗用車にはねられ、一人が死亡、三人が重軽傷を負った事故で、亡くなった土場俊彦君=当時(9つ)=の両親が乗用車を運転していた女性(54)=業務上過失致死傷罪で禁固二年六カ月が確定=に約七千六百万円の損害賠償を求めた訴訟で、最高裁第三小法廷(金谷利広裁判長)は二十六日、双方から意見を聞く弁論を開いた。
 この訴訟は、被害者が生きていた場合に得たはずの給与など逸失利益の計算に用いる中間利息控除率が争点。将来の収入などが損害賠償の形で弁済される場合、今後の運用で得ることができる金利分を差し引いて賠償額を算定する必要があるためで、これまでは主に5%が採用されてきた。
 昨年七月の二審札幌高裁判決は、実質金利が低い現状を踏まえ、被害者に有利な3%が適当と判断。これに対し、女性側は「同控除率に3%を採用した二審判決は判例違反で、保険実務の慣行にも合わない」として上告受理を申し立て、最高裁はこれを受理した。
 同日の弁論でも、女性の代理人は「5%は判例で確立した数字で、仮に3%を採用すると他の司法判断との公平性を欠く」と主張。一方、被害者側は「実務の安定より、損害の補てんである賠償額の算定の適正さが重要」と反論した。最高裁の判決言い渡しは六月十四日。

2005/6/14「北海道新聞」(夕刊)
北広島交通死の賠償額 被害者有利の算定認めず
最高裁 二審破棄、差し戻し 利息控除率 低金利でも5%固定

 北広島市で二○○一年八月、小学四年生の男児四人が乗用車にはねられ一人が死亡し三人が重軽傷を負った事故で、亡くなった土場俊彦君=当時(9つ)=の両親が車を運転していた女性(54)=業務上過失致死傷罪で禁固二年六カ月が確定=に約七千六百万円の損害賠償を求めた訴訟の上告審判決が十四日、最高裁第三小法廷であった。金谷利広裁判長(浜田邦夫裁判官代読)は、被害者に有利な賠償額の算定方法を採用した二審札幌高裁判決を破棄。算定は「民事法定利率(5%)によらなければならない」との初判断を示して、女性側が敗訴した部分の審理を札幌高裁に差し戻した。(解説5面に)
 差し戻し審では、賠償額全体を算定し直すことになるが、5%で計算すると約二千万円減額され、三千五百万円前後になる見通し。この訴訟は、土場君が生きていれば得られたであろう収入(逸失利益)を計算する際に用いる中間利息控除率を何%にするかが争点だった。逸失利益の算定では、被害者側が将来の収入を一括して受け取るため、運用によって得られる利息分を差し引く必要があるが、従来の保険や裁判では主として明治時代に定めた民事法定利率を根拠に5%が採用されてきた。
 ところが、一、二審判決はともに実質金利が低い現状を踏まえて、被害者側の主張通り中間利息控除率は3%が適当とし、結果的に賠償額が増える判断を示した。これに対し、女性側は「3%を採用した二審判決は最高裁判例違反。加害者の負担が重過ぎ、保険実務の慣行にも合わない」として上告していた。
 この日の判決で、浜田裁判官は「低金利下では中間利息控除率を5%より下げるべきだとの主張も理解できる」としつつも、逸失利益の計算には「法的安定及び統一的処理が必要」と指摘。「事案ごとに裁判所の判断が分かれるのを防ぎ、被害者相互の公平確保や紛争予防を図る」ため、民事法定利率を適用すべきだと結論付けた。
 二審判決は、女性に対し、土場君の「月命日」に約六万円を今後三十年間にわたって支払い、これとは別に約三千三百二十万円を一括して支払うよう命じていた。

命が軽んじられた

土場俊彦君の父一彦さんの話
 この判決は息子の命が軽んじられているようで残念です。中間利息控除率については5%未満の数字を積極的に認める裁判が出始めていましたが、それも認めてもらえませんでした。差し戻し審では、もう一度冷静になって息子のために何ができるかを考え、同じような被害者のためにもやり直したい。

北広島交通死の賠償額 利息控除率は5%
被害救済より法的安定 賠償法体系見直し急務

〈解説〉事件や事故で失われた「将来の利益」を一括して先に受け取る場合に、利息分をどれだけ差し引くべきか-。民事法定利率の「5%固定金利」を妥当とした十四日の最高裁判決は、破産法など他法令との統一や法的安定性を重視し、結果として被害者側に不利益になることがあってもやむを得ないとの判断を示した。不確定な要素を基に予測のできない未来を数値化する作業には、最初から正解がない。以前は地域によって異なっていた逸失利益の算定方法は、一九九九年に東京、大阪、名古屋の三地裁の共同提言で格差解消が図られるようになった。

 だが、明治時代に定めた民事法定利率に基づく「運用益」を賠償金から画一的に差し引くのは、低金利時代には、加害者側ばかりを利することになる。法律上の規定がなく、実態と懸け離れた数字に、被害者側が異を唱えるのは当然だ。支払う側と受け取る側の利益調整、という本来の目的から逸脱してまで「安定」に固執する必要はない。九九年の提言も「問題があればさらに検討を加える」と柔軟な運用を呼び掛けており、被害者の不利がこのまま放置されないよう、賠償全体の仕組みも含めた見直しを継続すべきだろう。

2005/6/15「北海道新聞」
原告、分割受領要求へ 北広島交通死賠償差し戻し 一括なら2000万円減

 死亡交通事故の賠償額算定をめぐり被害者側の主張を退け、審理を札幌高裁に差し戻した北広島市交通事故訴訟の最高裁判決を受け、原告側代理人は十四日、差し戻し審では請求の構成を変更し、被害者側に有利になる分割方式の受け取りを求めて争う考えを示した。最高裁判決によると、賠償金の一部を一括して受け取ると約二千万円の減額が見込まれるが、これを避けるため九年後の未来からの分割受領を求めていく。
 裁判では、被害者が生きていれば得られたと考えられる収入(逸失利益)を一括賠償する場合、差し引かれる中間利息控除率は何%が適当かが争われた。被害者側は3%、加害者側は5%を主張したが、最高裁は「事案ごとに裁判所の判断が分かれるのを防ぎ、被害者相互の公平確保や紛争予防を図る」効果を重くみて、5%を適用した。一括受領を5%で計算すると、約二千万円減額され、三千五百万円前後になる見込みだ。
 これに対し原告側は「この低金利時代に5%は高い」と判断。大幅に減額される一括受領をあきらめ、減額されないで済む未来の分割払いを求めていく考えだ。
具体的には、死亡した被害者が生きていたら二十二歳になる年から二十年間、命日の分割払いを求める。
 原告側はこの主張を、仮に控除率3%が認められなかった場合の予備的請求として一審段階から続けており、代理人によると「裁判所の判断は割れているが、こうした請求が認められ確定したケースもある」という。
 この裁判は、事故死した土場俊彦君=当時(9つ)=の両親が、車を運転していた女性(54)=業務上過失致死傷罪で禁固二年六カ月が確定=に約七千六百万円の損害賠償を求めている。

2005/9/7「北海道新聞」
利息控除 被害者有利に算定法変え賠償請求
北広島交通死差し戻し審

 北広島市で二○○一年、土場俊彦君=当時(9つ)=が乗用車にはねられ亡くなった事故をめぐり、土場君の両親が車を運転していた女性=業務上過失致死傷罪で受刑中=に損害賠償を求めた訴訟で、最高裁からの差し戻し審第一回口頭弁論が六日、札幌高裁(伊藤紘基裁判長)であった。

 両親の代理人は、土場君が生きていれば得られたであろう収入(逸失利益)から利息を控除する計算法を、これまでの複利式(ライプニッツ方式)から、被害者に有利な単利式(ホフマン方式)に変更し、あらためて損害賠償を求めた。交通事故の損害賠償では、賠償金を受け取った人が資金運用することを想定し、利息分をあらかじめ差し引くのがルール。その利率(中間利息控除率)は慣例で5%が使われてきた。これに対し両親は低金利の経済情勢を受け3%とすべきだと主張。一、二審とも両親の主張を認めた。だが最高裁は六月、5%との判断を下し、審理を札幌高裁に差し戻した。

 一方、利息の算定法には、元金に利息を加えた新元金を基に翌年の利息を算定する複利式と、元金だけに利息を付けていく単利式の二つがあるが、損害賠償では複利式が主流で、この訴訟も複利式を採用してきた。両親は、最高裁判例で確定した5%に基づきながらも、控除分がより少なくなり被害者に有利となる単利式を採用するよう求めることにした。これにより新たな損害賠償請求額はこれまでの約七千六百万円から約六千九百万円になるが、5%複利式で算定した場合より約千九百万円上回る。

 女性側は十一月八日の次回弁論で反論する。

2006/03/23「北海道新聞」(夕刊)
北広島交通死差し戻し控訴審
利息控除は「5%複利」札幌高裁判決、賠償を大幅減額

 北広島市で二○○一年、小学四年生の男児四人が乗用車にはねられ一人が死亡、三人が負傷した事故で、亡くなった土場俊彦君=当時(9つ)=の両親が乗用車を運転していた女性(業務上過失致死傷罪で禁固二年六カ月が確定)に損害賠償を求めた訴訟の差し戻し控訴審判決が二十三日、札幌高裁であった。

 伊藤紘基裁判長は一審の札幌地裁判決を一部変更し、慰謝料と遅延損害金を除く損害賠償額について、一審判決を約二千二百万円下回る約九百七十万円に減額する判決を言い渡した。慰謝料については「月命日払い」を一審通り認め、支払額を四百万円増額し、三十年間にわたり計二千六百万円を支払うよう命じた。

 最大の争点は、損害賠償金に含まれる逸失利益の計算方法。土場君が生きていれば得られた収入の合計である「逸失利益」から、将来の利息分を差し引く中間利息控除の際、原告側は差し戻し審で控除率を5%単利とするよう求め、女性側は5%複利を主張していた。
 判決は、原告の主張を退け、控除額がより大きくなって被害者に不利な「5%複利」を採用した。判決理由で伊藤裁判長は「東京など三地裁が一九九九年、交通事故の逸失利益の計算に複利式を採用することを提言しており、法的安定や統一的な処理を図るため、本件も複利式を採用するのが相当」と述べた。

 一審判決では、原告が求めた慰謝料の分割払いを認め、被告に三十年間、土場君の月命日(十八日)に六万円を支払うよう命令。中間利息控除率を原告の主張通り3%複利とし、被告に約三千二百万円の支払いを命じた。二審もこの判断を維持した上で、損害額を約百万円増額した。 女性側は控除率を5%複利とすることを求めて上告。最高裁は昨年六月、「(算定は)民事法定利率(5%)によらなければならない」と初判断。単利か複利かは判断せず、二審判決を破棄して札幌高裁に差し戻していた。

2006/03/24「北海道新聞」
北広島の交通死訴訟 遺族が上告へ

 北広島市で二○○一年、小学四年生の男児が乗用車にはねられ死亡した事故をめぐり、両親が車を運転していた女性に損害賠償を求めた訴訟の差し戻し控訴審判決で、札幌高裁は二十三日、損害賠償金から差し引く中間控除利息率を被害者に不利な「5%複利」とする判決を言い渡した。これを受け、男の子の父で会社役員土場一彦さん(47)=北広島市=は同日、判決を不服として上告する考えを明らかにした。
 土場さんは札幌市内で記者会見し、判決が裁判実務上「同種事案について統一的処理を図る」ことなどを理由に、土場さんが主張した単利式でなく複利式の採用を認めたことに対し「判決は『統一』の視点のみで、被害者を救う内容になっていない」と指摘。無念さをにじませながら「上告し、私たちと同じ交通事故被害者のためとなる判例をとりたい」と述べた。また、「命を金銭であがなう損害賠償請求は遺族に苦しみしか残さないが、悲劇を繰り返さないため、命の重みを代価として評価することが必要だ」と話した。

民事差し戻し審の結果報告

2006年3月  土場 一彦

■3月23日、差し戻し審(高裁)判決
 差戻し審の状況の報告も出来ずにおりましたが、3月23日に私どもの民事差戻し審(札幌高裁)の判決が下されましたので、結果を御報告させて頂きます。昨年6月に最高裁において、「裁判処理の統一性を担保する為に、中間利息控除は法定利息率5%をもって逸失利益を算定するものとする」という判断が下されて以降、この判決に異を唱える法学者及び司法関係者、マスコミの方々等が出版物や取材・報道を通じて社会に訴えて頂いたことは、私どもが提訴に込めた思いや被害者が被る不条理の一端を広く認知してもらえるきっかけとなったのでは、と考えます。ただ、これまで不当に奪われた御家族の命に精一杯向き合われてきた遺族の方々に悪しき結果をもたらしてしまったのでないか、という後悔が強くありました。そのため、差し戻しの審議では私達に何が出来るかを考えて臨んで参りました。具体的には、逸失利益算定については中間利息控除を法定利息率5%を基に単利で差し戻すホフマン方式採用の主張と、その他は1審で提訴した当時の内容(慰謝料の30年間毎月命日分割払い等)の再度の主張を、計3回の審議の間に新たな証拠書証をもとに尽くしました。

■「命日分割払い」認容と増額など前進も
 判決の結果は、息子が将来大学に進学していた蓋然性を新たに認め、事件の悪質性(故意に匹敵する)・加害者の非道な対応等を詳述した上で、新たに慰謝料の増額と支払い方法(30年間毎月命日分割払い)を認容し、葬儀費用もほぼ全額の支払いを加害者に命令するという内容で、1、2審でも受け入れられなかった主張も一部認められるものとなりました。

■命の尊厳求め、再度上告へ
 ただし、判決文では、事件の悪質性を十分に認容させるという点、息子の尊厳を認めさせるという点について評価出来る部分はあったのですが、逸失利益算定に当たってライプニッツ方式で中間利息控除を法定利息率5%を採用する点について、被害賠償の統一性、公平性を担保して裁判処理を進めることの必要性を具体的な根拠なく判示しました。これは明らかに息子の命の尊厳を鑑みる事のない姿勢で、加害者に対して公平性をすでに損なっている被害者を不当に追いつめるこれまでの判例と何も変わらず、このことに対する1、2審での判断までも否定するようなものでしたので、はじめて私共から上告の手続きをとることにしました。まだ先が長いですが、少しでも息子に報告出来る結果を求めて進んでいきたいと考えております。

「北海道交通事故被害者の会」会報20号(2006/4/10)より

2007年7月15日「読売新聞」
現法定利率引き下げへ
現行5% 変動型も視野 民法改正方針

 法務省は民法で定める法定利率を、現行の年5%から引き下げる方針を固めた。低金利時代を踏まえ、市中金利との乖離(かいり)を是正するのが狙い。引き下げ幅や変動型か固定型かなどについて検討を進め、早ければ2009年の通常国会で法改正したい考えだ。

逸失利益算出など影響

 法定利率は、民法404条で、「利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率は、年5分とする」と規定され、金銭貸借などの契約で、利息をつけることになっているのに、具体的な利率が決まっていない場合に適用している。損害賠償金など法律上発生した債権に加算される遅延損害金、不正利得を悪意で得た受益者がその利得を返還する場合につける利息にも適用される。

 企業間の特許侵害など巨額の損害賠償を求める民事裁判では、金利差が大きいため、賠償金を早く手にするより、法定利率を適用した遅延損害金を受け取る方が有利なため、権利者側が意図的に交渉を長引かせる弊害も出ている。死亡交通事故の被害者が生涯で得られたはずの逸失利益を算出する際に、決定額は法定利率で運用されたと仮定し、その利息分を支払い時に差し引いている。

 例えば、未成年の死亡交通事故の被害者が18歳から49年間働き約1億3800万円を稼ぐと仮定した場合、年5%の利息分を差し引いて3310万円のみを支払うとの判決が出ている。適用利率が低ければ、遺族が受け取る賠償金は多くなるため、識者や遺族の間には「低金利時代なのに年5%もの高利運用の見通しは立たず、被害者に厳しすぎる。現状との乖離を見直すため、法定利率の見直しが必要だ」の声がある。

 また、利息制限法の上限を超える高金利で支払った「過払い金」の返還に利息がつくかどうかが争われた訴訟では、13日の最高裁判決で、貸金業者が悪意で得た不正利得に当たるとして、年5%の法定利率を適用すべきとの判断を示した。法定利率は、1896年の制定時から1世紀以上も改正されていない。

【解説】(同紙2面)
法定利率引き下げへ 事故遺族の救済 期待

 法務省が法定利率引き下げの方針を固めた背景には、死亡交通事故の被害者の逸失利益から差し引く利息の利率に、年5%の法定利率を適用すべきだとの初判断を示した2005年6月の最高裁判決がある。
 それまでの下級審判決では、被害者に配慮し、差し引く利息額を低くするために2~4%の利率を適用する例もあった。だが、最高裁判決は「賠償額の算出にあたって、裁判官ごとに判断が分かれることを防ぎ、被害者間の公平を確保する必要がある」との理由から、統一基準として法定利率を採用。以後、被害者を保護する観点から法定利率の見直しを求める声が強くなっていた。法定利率の引き下げは、災害や事故などの被害者遺族の救済につながることが期待されている。
 法務省では今後、定期的な民法改正で法定利率を見直していく(固定型)のか、変動利率を政省令で定め、経済情勢に合わせて適宜変動させていく(変動型)のかなど、具体的な制度設計を急ぐ方針だ。(政治部 久保庭総一郎、本文記事1面)

民事法定利率の改正について

2007/7/30 弁護士 青野 渉

■法務省が民事法定利率改正の方針を固める
 2007年7月15日付の読売新聞の一面で、法務省が民事法定利率の引き下げの方針を固めたことを報道しました。この法改正が実現すれば、交通事故被害者の民事裁判が大きく変わることになります。

■これまでの経過
 交通事故によって、死亡したり、重い後遺症を負った場合、被害者は加害者に対して、事故によって受けた損害の賠償を請求することができます。損害賠償の中心になるのは「逸失利益(いしつりえき)」と呼ばれる損害です。「逸失利益」というのは、簡単にいうと「事故によって失われた将来の収入」を意味しています。例えば、事故で脳に障害を負って記憶力や知能が低下してしまった場合、事故前と同じように働いて収入を得ることが難しくなります。死亡した場合には、将来得られたはずの収入を全て失うことになります。その分の損害を加害者に請求することになるのです。
 ただし、将来の収入(10年後、20年後、30年後にもらうはずの年収)を、事故直後に一括して受領することになりますから、その間の利息を「差し引く」ことになります。具体的にいうと、年収500万円の被害者の逸失利益を計算する場合、裁判所は、次のように考えます。
 「10年後に受領できる500万円を現時点で受け取る場合には306万円になる。なぜなら306万円を10年間保有していれば、利息がついて500万円になる。同じく、30年後に受領できる500万円を現時点で受け取る場合には115万円になる。」
 そして、この計算で「利息」は「年5%」として計算するのが裁判所の慣例でした。この「5%」という利率が「民事法定利率」なのです。現在の民法は明治29年(1896年)に制定され、民事法定利率は一度も改正されていません。
 しかし、これは現在の社会実態とは全くかけ離れています。定期預金の利率は平成8年に1%を割り、以後、10年以上にわたって1%以下の金利が続いています(1896年以降、このような低金利ははじめてのことです。)。被害者は、受け取ったお金を年5%で運用することなど、不可能なのです。しかも、実は、民法には「逸失利益を計算するときは民事法定利率でやりなさい。」ということは書いていないのです。ですから、平成8年~平成16年にかけて、いくつかの地方裁判所で、民事法定利率より低い利率(2~4%)で逸失利益を計算した判決が出ていました。そして、平成16年7月16日、札幌高等裁判所は、高等裁判所としてはじめて逸失利益算定の利息について「実質金利を考慮して3%として計算する。」という判決を出しました(土場俊彦君の事件)。
 しかし、平成17年6月14日、最高裁判所は、札幌高裁判決を破棄し「逸失利益の計算は民事法手利率によらなければならない。」との初判断を示したのです。つまり、最高裁判所は「実際の金利がどうであろうと、5%で計算すべき。」という判断をし、この問題は「司法」の場面では、決着がついてしまいました。
 しかし、土場さんの事件の最高裁判決は、新聞やテレビでもかなり大きく取り上げられ、「被害者が年5%で運用することは不可能だ。この判決はおかしいのではないか?」という、当然の批判がなされていました。そこから、「司法」ではなく「立法」として、法律自体を変更するべきだという動きになっていきました。
 政府の規制改革・民間開放推進会議は、最高裁判決の翌年の答申で、日本の民事法定利率が高すぎることを指摘し、「民事法定利率の見直し」を要請したのです。答申が公表された後、実際の民法改正作業を行う法務省民事局の動きが注目されていたのですが、冒頭で述べた読売新聞の報道によれば「2009年までに改正する方針を固めた」ということです。報道が事実だとすれば、2年以内に法改正が現実化することになりそうです。

■被害者の声が法律を変える
 記事でも指摘されているとおり、今回の利率の引き下げは、土場俊彦君の事件をはじめとする交通事故被害者の活動が影響しています。裁判そのものは勝つことが出来ませんでしたが、被害者の声が法律を動かそうとしています。
 刑法や道路交通法も、交通事故被害者の皆さんの力で改正されました。今度は、民法の改正です。ただし、保険業界にしてみれば、保険金の支払額に大きな影響を与える「一大事」です(9歳男子の事案ですと、民事法定利率が3%になれば従来の1.7倍、2%になれば2.2倍となりますので保険会社の経営にとっては深刻な問題となり、保険料率の改定もされるでしょう。)。したがって、実際の法改正までは、まだ紆余曲折があると思います。今後も被害者の声を政治に届けていくことが重要だと思います。

(あおの わたる)

 「俊彦のために立ち上がらざるをえなかった裁判で、最高裁にて判断を仰いでも、被害者の声は届きませんでした。その際、次は立法措置しか手段はないな、と感じておりましたが、国のほうで先に腰をあげたのは、驚きと共にやってきた事の成果が別の形で現れたのかなと感じております。この件についてお悩みの多くの被害者、遺族の方々に少しでも光が当てられて、亡き人々の尊厳が少しでも回復されることを願っております。」

7月31日 土場一彦
「北海道交通事故被害者の会」会報24号(2007年8月20日)より

-相互支援の記録(2000〜2013)
-, , ,

© 2024 交通死「遺された親」の叫び