竹田響ちゃん交通死事件、支援の記録
2003年7月17日、札幌市立北郷小学校1年の竹田 響(ひびき)ちゃんは、校門前の交差点でクルマにひかれ、わずか6歳4か月で命を奪われました。スクールゾーンでの決してあってはならない事件に、遺族は悲しみの中で真相究明と交通犯罪撲滅の為の厳罰化に取り組みました。しかし2005年6月、札幌地裁が下した判決は、禁固1年、執行猶予3年の不当判決。判決内容は真相究明にほど遠く、遺族は民事裁判の中で、真相究明と責任を求める取組を始めています。(2005/6/8)
《事件直後の取組》
ご遺族の訴え(詳細は協力のお願い)
平成15年7月17日午後1時ごろ、札幌市白石区北郷3条5丁目、北郷小学校校門前のスクールゾーン道路上の横断歩道付近で、私共の長男 竹田 響(北郷小1年生 6歳)は、下校の為、徒歩で横断していたところ、ロングボディー型ワゴン車の正面中央に衝突され、さらに加害車輌のタイヤに全身を轢過され、頭部も踏み潰されました。心肺停止のまま病院に運ばれましたが、午後2時、わずか6年4ヶ月の短い生涯の終わりを宣告されました。
翌日の新聞では、加害者が信号待ちしていた交差点を発進後、約20メートル先で響に気付くのが遅れてはねた、と報道されました。しかし、警察からは「そのような事実は正式に公表していない、加害者の供述に基づく報道だ」との説明があっただけで、現場道路上にはスリップ痕もなく、加害車輌の停止地点が響の血痕が印象されているところから60メートル以上はなれていたことや、携帯電話を持っていたことに対してかたくなにその事には触れようとしない態度等多くの疑問があります。
私達は、公正な捜査がなされるよう自ら目撃者を捜したり、事故の真相究明に被害者の立場で行動を始めています。(新聞報道参照)そのことを通じて子供の安全が守られる社会になってほしいという願いが、響から託された思いだと信じています。つきましては、皆様のお力を借りて厳正な処分を求める要望書を以て、科学的かつ多角的な捜査で真相が明らかにされた上で厳正な処罰がされるように、被害者の代弁者たる検察庁に求めて行きたいと考えております。ご協力をお願いします。(竹田 彩)
《経過》
- ★05/6/8
-
札幌地裁は禁錮1年、執行猶予3年の不当判決!(新聞報道)
竹田さんは、検察に控訴を要請。記者クラブで次のコメントを発表しました。 - ★05/6/1
-
札幌地裁にて、第2回公判。母親の彩(さやか)さんが30分の意見陳述。しかし、検察側の求刑は不当に軽い禁錮1年。遺族のコメント
- ★05/5/9
-
札幌地裁にて、第1回公判行われる。
※不自然な検察側の事故態様説明と反省と誠意が全く感じられない被告の言動に約30人の傍聴者は慄然。 - ★05/3/15
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札幌地方検察庁は加害運転者業務上過失致死で起訴。
- ★04/10/21
- ★04/2/16
-
検察庁へ告訴状提出 新聞報道
同時に、要望書約800通を札幌地検に提出 - ★03/11/17
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母親の彩さんが北海道交通事故被害者の会主催のフォーラムで訴える
「なぜ悲劇が?校門前で子どもの命を奪われた親の訴え」 - ★03/9
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真相究明と厳正な処罰を求める要望書のとりくみ開始
(上記「ご遺族の訴え」参照) - ★03/7/17
-
響ちゃん校門前で車にはねられる
地裁判決を受けて
平成17年6月8日 竹田 彩
私は法律のあり方がわからなくなりました。
「校門前のスクールゾーンなのに、なぜ?どうして?」との疑問に、1年10か月苦しんできて、ようやく裁判。やっと真相が明らかにされると期待していたのに、法廷では事故の真相は明らかにされず、意見陳述でも疑問を述べなくてはなりませんでした。そして今日下された判決は「禁錮1年、執行猶予3年」と、あまりに軽い刑罰。人の命の重みは、響の人生は、一体何なのでしょうか?人間一人が殺されているというのに、事故の真相を明らかにはしてくれない裁判とは一体な何なのでしょうか。
息子を殺されっぱなしで、遺族の思いは無視され続け、疑問はつのるばかりです。この疑問の答えは、だれに、どこに求めれば見つかるのでしょうか? 自ら苦しみ続け生きてゆくしかないのでしょうか?加害者が守られ、被害者は守ってくれないというのが率直な思いです。
児童を守るべき道で殺されたのに、こんなにも軽い刑で済むなんて、あまりにひどすぎます。
スクールゾーンや制限速度、児童の保護義務など法律で決められているのに、これでは制度や法律の意味がありません。ただ響の最期の真相が知りたい。知ってあげなければ響の親として済まないという気持ちでここまできましたが、あまりに不当な判決です。
このままでは私は響に報告できません。響の名誉と命の尊厳のために、真相を明らかにするための民事裁判を考えたいと思っています。
判決公判を前に 第2回公判(意見陳述)を終えて
2005年6月1日 竹田 彩
1 長男竹田響が犠牲になった交通死事件が1年10月を経てようやく刑事裁判を迎え、遺族母親の「校門前のスクールゾーンなのになぜ」という疑問が解明されるものと期待しましたが、残念ながら多くの疑問を残したまま第2回公判は結審しました。
2 第1回公判での供述と提出された証拠等をもとに、遺族の意見陳述の機会が与えられ30分の陳述をすることができましたが、その中で、被告と被告の夫が、現場にお花をあげていたなどと謝罪に関する経過について自己弁護のための偽りの供述をしたことに対し、当事者として真実を述べ、嘘を指摘することができたことは貴重でした。
3 しかし、起訴に至る経過と捜査報告書の内容から、改めて交通犯罪の捜査が、加害者供述に偏っており、犠牲者にとって「死人に口なし」の不公正がまかり通るということを痛感しています。私たちは、事件後「なぜ下校時の校門前で」「なぜ加害者は逮捕もされていないのか」との疑問を持ち、警察に問い合わせましたが納得のいく説明はされませんでしたので、目撃者を求める看板を設置して目撃情報を集め、警察に疑問点を意見書として提出し、昨年2月16日には自ら告訴もしました。遺族が動かなければ響の飛び出しが原因にされ起訴もされなかったのではないかと今も思っています。
4 遺族としては、事件後の謝罪に関しての嘘から、被告の警察での供述内容が全く信じられず、疑念を抱かざるを得ない起訴事実で裁かれることへの不安と怒りが強くあります。嘘と疑念の例を、衝突時の速度および脇見など事故原因に絞って指摘します。
① 衝突時の速度を25キロとしていますが、加害車両前面が長男の頭部とぶつかったことによる凹損が4ミリあり、さらにタイヤで頭部を乗り越えているのにそのような低速であったとは思われません。
② 加害車両が衝突位置から71.5m先に車を停めていたことも、もし逃げようとしたのでなければ、高速だったため止まりきれなかったと考える方が自然であると思います。
③ 被告は、事件後8日目に自宅に説明に来たときに、響の遺骨の前で途中から本当の事を語りはじめ、そのときは何度も確認した中で次のように説明していました。
- ★信号までは50キロぐらいで走行し学校の前に向かいました。(この速度も後の警察での供述では30キロに変わっています)
- ★校門前の信号が青だったので、そのまま止まらずに通過しました。
- ★衝突時のスピードは50キロぐらいだったかもしれません。
④ さらに、現場は片側1車線、車道幅6mの狭い道路です。被告が普通に前方を向いていれば充分見通すことができ、被告の進行方向右側歩道上にいた響を発見するのは容易であったはずです。響は渡りきる直前で轢かれているのですから、脇見の原因としている「左方のこどもが気になった」という被告の弁明は全く信じがたく、携帯使用など別の原因があったのではないかという疑問が強く残ります。
5 速度何キロだったのか、なぜ前方不注視となったのか、真相が明らかにされなくては、響の名誉は守られません。私は「校門前のスクールゾーンで、なぜ、どうして」という疑問が残り、この点でも精神の安定すら得られることがありません。親として裁判に求めるのは、事故態様の詳細、事故原因と真相の究明ですが、同時に、校門前のスクールゾーンで6歳児が犠牲になったという社会的事件を重くとらえ、道路交通法70条および71条2号を正当に適用してもらいたいのです。とりわけ71条2号の児童の保護義務違反が厳格に罰せられなければ、今後も子どもの安全は守られません。その点では、今刑事裁判において真相究明が不十分に終わったとしても、被告のこの点での違法行為による重大過失という罪はいささかも軽くなるわけではありません。
これについては、警察や検察がこれまで遺族に行った説明の中でも、横断していた響に非があるような言い方をされたことがありますので、代理人弁護士から別紙上申書を提出しています。事件を知る父母住民からも子どもを交通死から守るための要望書が多数届いており、裁判所へは計822通を提出しています。
6 検察側の求刑は、禁錮1年と、遺族の願いとはほど遠いあまりに軽い求刑でした。社会で保護すべき児童の命を校門前のスクールゾーンで無惨に奪ったという悪質性と、それに対する罪の意識が希薄で、自己保身のために嘘と不誠実を繰り返す被告の言動からも、せめて執行猶予のない実刑が下されることを願います。
7 遺族の思いは、何より真実を明らかにして欲しいことです。この法廷で明らかにされないのであれば、今後民事裁判を提起し、この中で真相を究明したいと考えています。
8 被害者遺族が同じ無念の思いを繰り返していることに、胸が痛みます。加害者を逮捕、拘置し調べを行っていれば、また当初から目撃証人を確保し公正に捜査が為されていれば、このような二次的苦しみはないと思います。また、せめて交通事故調書が被害者側に開示されていれば、このような一方的な捜査報告にはならなかったと思います。
上申書
札幌地方検察庁 検察官荻谷充孝 殿
平成16年10月21日
竹田彩代理人弁護士 青野 渉
同弁護士 森谷 瑞穂
当職らは、被疑者○○○○にかかる業務上過失致死被疑事件について、被害者遺族の代理人として、以下のとおり上申いたします。
被害者遺族は、8月23日に検察官に面談をしていただき、本件事故の状況について丁寧にご説明をいただき、また、遺族の疑問点についても捜査を遂げていただいたことについては、深く感謝しております。
遺族の気持ちを陳述書にまとめましたので、本日、提出いたします。
また、捜査及び起訴・不起訴の判断については、検察官の専権であることはもとより承知しておりますが、加害者については公判請求をしていただきたく、本書書面にて、代理人の意見を申し上げます。
1 加害者の責任について
本件事故現場の道路は、小学校の前のスクールゾーンであり、下校時間であったことから、被害者を含め、多数の児童が歩行しておりました。被疑者は、現場付近在住のものであり、本件道路がスクールゾーンであることを知っていたことはもちろん、本件道路の見通し状況からすれば、多数の児童が現場付近にいたことも十分に認識していたはずであります。
道路交通法70条は、安全運転配慮義務を定めており、道路状況に応じた運転をすることが義務付けられています。さらに、同法71条2号は、以下のとおり定めております。
監護者が付き添わない児童若しくは幼児が歩行しているときは、一時停止し、又は徐行して、その通行又は歩行を妨げないようにすること
この規定は、児童・幼児は、大人に比べて判断力・認識力・注意力が劣り、目前の物事に集中して、自動車の接近に気付かないことが予想されるので、車両運転者の側に義務を課して、児童・幼児を保護することを目的とする規定であります。徐行とは、ただちに停止できる速度をいい、一般には、時速10キロメートル以下をいうとされています(東京法令出版・12訂版・道路交通法解説414頁)。
被疑者は、徐行せず、まして一時停止もしておりませんので、明らかに71条2号に違反しております。
これらの事情からすると、加害者の刑事責任は極めて重大であります。
2 被害者の落ち度があるか否かについて
本件事故には、被疑者の責任を軽減するような、「被害者側の落ち度」があるものとは考えておりません。この点を被害者遺族としては、強く申し入れいたします。
平成16年8月23日の面談の際に、検察官が、横断歩道を横断しなかったことを指摘して、被害者側(響あるいは保護者・学校の側)に落ち度があり、それによって、加害者の刑事責任が軽くなるかのような趣旨のお話がありました(そのような趣旨でおっしゃったのではないかもしれませんが、遺族としては、響及び遺族が責められているように感じられました。)。
検察官がご指摘の被害者の落ち度は、被害者の道交法12条違反(あるいはそれを前提としての7条違反)の問題を指摘するものと理解しております。
(1) 71条2号と12条との関係
しかし、当職らとしては、71条2号は12条に優先する規定であり、両方が適用される場面では、12条違反は成立しないと考えております。
前記のとおり、加害者には、道交法70条、71条2号違反があります。特に71条2号は、幼児及び児童が付近にいる場合には、車両には、一時停止の義務まで課しております。このように、法は、幼児・児童の通行を徹底して優先させることを明記しております。
そして、①そもそも被害者は当時6歳であり、刑事法においても、民事法においても、法的責任能力がなく、法的な意味では規範の違反を問えないこと、②12条は歩行者一般に関する一般法であるが、71条2号は児童・幼児に関する特別法であること、③71条2号は車両運転者の義務であり、12条は歩行者の義務であるところ、道路交通法の規定の仕方からも明らかなとおり、71条2号の義務のほうがはるかに重大な義務であること(12条違反には罰則がないが、71条2号違反は懲役刑を科される。)、等を勘案すれば、71条2号に該当する児童との衝突事故に際しては、12条よりも71条2号が優先するものと考えられます。もともと児童・幼児の注意力が低く要保護性が高いことを前提に、71条2項という法規範がつくられているにもかかわらず、71条2項違反の事例で、幼児・児童の過失を問題にするのは、法的には背理であります。
したがって、当職らとしては、被害者側には何ら法規違反はないものと理解しております。
(2) 道交法違反の有無について
なお、そもそも、本件事故に関しては、道交法12条(横断歩道横断義務)に該当する事案ではないと考えておりますので、付言いたします。
道交法12条は、「歩行者は道路を横断しようとするときは、横断歩道がある場所の附近においては、その横断歩道によって道路を横断しなければならない。」と定めております。この場合の「横断歩道がある場所の附近」とは、目的の場所に行くために横断しようとする道路に横断歩道が設置されている場合のことを言います。本件事故現場付近の交差点は、三叉路になっており、横断歩道は1箇所しかありません。正門前の横断歩道は、目的地に直接繋がる横断歩道ではなく、正門前の横断歩道を渡った場合には、もうひとつの横断歩道の無い道路を渡らなければなりません。このような場合には、そもそも法12条のいう「横断歩道がある場所の附近」という要件に該当せず、12条違反とはいえないと考えております(前掲書167頁の図(4)参照)。
(3) 自動車通行の優先性に対する疑問
道路交通法の規定は、歩行者の通行を優先し、交通弱者の保護を徹底しております。これが法律の趣旨です。ところが、現実の社会では、死亡事故が発生した場合に、加害者に同情し、死亡した被害者の落ち度をことさらに指摘することがあります(本件でも公判になれば弁護人が指摘する可能性があります。)。しかしながら、「落ち度」の中身を検討すると、法的には、全く不条理なことがよく見受けられます。例えば、横断禁止場所ではない道路を歩行者が横断することは、何ら禁止されておりません。そこを子供が横断して事故が発生したとき、往々にして「子供が飛び出した」ということで、加害者の責任は軽減されてしまいます。しかし、このようなケースでは、加害者に71条2号違反があるだけで、子供には何らの法規違反はなく、加害者の責任を軽減する理由は全くありません。
当職らは「(幼児・児童は)横断歩道を渡らなくていい。」とか「(幼児・児童は)赤信号で渡ってもいい。」とか「(幼児・児童は)道路に飛び出してもいい。」などと主張するつもりは毛頭ありません。学校や保護者が、子供に対する教育として、交通ルールの遵守を指導するのは、当然のことであります。それによって、子供の命が失われる事態を減らすべく最大限の努力をするのは大人の責任であります。
しかし、「交通安全教育」と事故が発生したときの加害者の責任が軽減されるか否かとは全く別問題です。
自動車運転者全員が、全て完璧に交通法規を遵守しているわけではない現状を前提にすれば、交通弱者の自衛手段として「クルマを敵だと思って、一瞬も気を緩めずに警戒しろ。」というくらいの徹底した安全教育が必要だと思っております。これは交通弱者の自衛策です。しかし、そのことと「警戒を怠った場合に加害者の責任が軽減されるか。」というのは全く別問題です。例として適切かわかりませんが、以下のようなことを考えてください。
世の中の治安が悪くなってくると、「夜、女性が一人歩きするときは、防犯ベルやスタンガンを持ちなさい。」というのが当たり前の世の中になってきます。そういう常識が定着してくると、防犯ベルもスタンガンも持たないで歩いていた女性には「落ち度がある。」というような発想がでてきて、加害者の責任が軽減されることになりかねません。しかし、そんな馬鹿なことがあるでしょうか。防犯ベルやスタンガンの携行義務などというものは、法的義務ではありません。「異常の常態化」が、正常を駆逐してしまうということであります。
現在のクルマ優先社会の現状は、これに近いものがあると思っております。本来、交通弱者の保護をドライバーが徹底すべきなのに、違反をしても、摘発も罰も厳格には行われません。安易に免許を交付し、免許が取り上げられるということはまずありません。例えば、前述した71条2号を遵守しているドライバーがどれだけいるでしょうか? 違反しても、それが摘発されることがどれだけあるでしょうか? このような現状で、ドライバーは、道路交通法を軽視し、法規違反をしているという意識さえ希薄になり、捜査機関も司法も甘い態度で臨み、車対歩行者の事故が発生しても、「クルマの前に歩行者がでてくるのは歩行者に何か落ち度があるんだ。」という被害者のあら探しをするようなことが行われております。
治安を維持し、社会正義を実現する職責を有する検察官には、法的にみて、何が正常で、何が異常であるか、を考えていただきたいと思います。加害者の責任を軽減すべき「被害者の落ち度」とは何なのか、「法律に照らして」十分に検討していただきたいと思っております。
3 被害者遺族への配慮について
冒頭で申し上げたとおり、平成16年8月23日に、検察庁で、代理人青野と竹田彩が貴職と面談した際、現在までの捜査状況についてご説明をいただき遺族としては大変感謝しております。ただ、その際に、貴職は、被害者竹田響に落ち度があるということを、何度か指摘されました。
公益の代表者として法秩序の維持を職責とし、加害者を訴追する立場にある検察官が、捜査段階において、被害者遺族(特に幼い子供を亡くした母親)に対し、被害者の落ち度を指摘するような発言をすることは、配慮を欠くものと思われます。
前記したとおり、当職らは、被害者には落ち度はないと考えておりますが、万一、何がしかの落ち度があるとしても、そのことについては被害者は命を失うという形で責任をとらされているのではないでしょうか。他方で、重大な義務違反をしたはずの被疑者はわずかの身柄拘束もされずに従前どおり生活しております。このうえ、さらに、被疑者の責任を追及する立場にある検察官が、遺族に対して被害者の落ち度を指摘することは、被害者遺族には酷であります。
今後、裁判になった場合、被告人・弁護人は、おそらく、被害者側の落ち度を指摘すると思います。遺族としてみれば、そのような加害者側の主張を排斥すべく戦ってくださるのが検察官であると考えておりますが、その検察官から「響君の命を奪った加害者の責任を追及すべく厳正に捜査をする。」という言葉がなく、かえって「響君が、横断歩道を渡らなかったのは残念だ。」という言葉しか聞けないというのは、大変残念に思います。
4 遺族調書について
本日提出の陳述書に、竹田彩の心情が記載されておりますので、遺族調書にはできるだけ取り入れていただきたく、お願い申し上げます。
5 正式起訴の要望
以上述べたとおり、スクールゾーンの見通しの良い道路で、児童が多数歩行していることを認識しながら、徐行もせず、前方不注視によって、6歳の命を奪った本件加害者の責任は、極めて重大であると考えています。正式起訴をされるよう、強く要望いたします。
北海道交通事故被害者の会主催 フォーラム・交通事故Ⅳ
テーマ・・・「歩行者と自転車の安全を考える」での竹田さんの発言
なぜ悲劇が?校門前で子どもの命を奪われた親の訴え
2003年11月7日 札幌市中央区「かでる2・7」にて
私の長男、響は平成15年7月17日、北郷小学校正門前の手押し信号のある横断歩道付近でワゴン車にはねられ、4m以上も引きずられ、たった6歳4ヶ月で、その尊い命を奪われてしまいました。
響は温厚で優しさと明るさいっぱいの子でした。臆病な面も多い子で、又その反面、男らしく強いところもありました。どんな時も笑顔を絶やすことが無く、正義感がありまっすぐで素直だった息子は「消防士さんや救急隊員になって沢山の人を助けるんだ」と、将来の夢を強い意志で私に話してくれました。この時私は、まさか響自身が救急隊の方のお世話になり、死をむかえるとは思ってもみず、息子の心の成長に喜びを感じていました。
私もあまり体は丈夫ではなく、調子が悪い時や入院した時には姉妹の面倒を見てくれたり、私を支えてくれました。冬、家族が熱を出した時には外へ行って氷を拾い集めてくれた事もありました。「男はね、女を守るんだ!だから、ママもうーたんもひじもみやも響が守ってあげるから大丈夫だよ!」と言ってくれた時は、とっても嬉しく、心の優しさを強く強く感じました。
ゴミ捨てもいつもしてくれました。亡くなる2日前にも、「ママ、肩が痛くなるから響がなげてきてあげる」と重い生ゴミをひきずる様に捨てに行ってくれたのです。
どんなに小さな喜びも心から喜んでくれました。「ママの作るごはん最高ー!」「おなか空いたー」「のど乾いたー」「今日のごはん何ー?」「学校たのしい」「字が書けるようになったよ!」こんな毎日普通に話していた響の声が、もう聞けない。たった3ヶ月しか通うことができなかった学校。本当に心残りでしょうね!
ママは響に頑張る力を与えてもらっていました。もっと響の成長を見たかった。今日まで毎日毎日会いたくて、声が聞きたくて、あの日のことを考え涙が止まりません。泣かない日はありません。毎週日曜日には必ず家族で出かけました。くだもの狩りや海、お祭り、公園など、毎週日曜日を楽しみにしていました。亡くなった日から3日後には海へ行く約束でした。
なぜ響は死ななければならなかったのでしょうか?
もちろん、直接の原因は加害運転者の危険運転です。加害者は下校時の校門前で、沢山の児童がいる状況にもかかわらず、スピード超過をし、信号も前も全く見ずに車を凶器に変えました。加害者はそのうえ、自分の身を守るために証言を変えたり、嘘をついたりしています。
私はこのような加害者を絶対に許すことは出来ません。1人の命を、響の残り80年もの人生を奪い、殺害した事実から逃げず、一生かけて償ってほしいです。私は同時に、このような危険運転が校門前で行われていたことに強いショックを受けています。
現場はスクールゾーンで、子どもたちが優先に登下校する道ですが、幹線道路である13条通りを避け、水源地通りや環状通りへの抜け道になっているのが現状です。もちろん混んでいる道を避けて来る車ですから急いでおり、スピードの出し過ぎや信号の見落としも多いのです。子どもだけでなく大人でさえ、あまりの車優先に立ち止まる事があります。
ここは、10数年前までは登下校の時間帯に車両通行止めが行われ、校長が外へ立ち児童の安全指導をしていたそうですが、それでも事故は起きていたと聞きます。こんな状況なのに、なぜ、また車を進入させるようになったのでしょうか? 人の命よりも大切な何かがあるのですか?
今は車が優先の道路となり、子どもたちは危険だらけの道路を毎日通らなければなりません。実際に、響が命を奪われる前の5月にも、同じクラスの子が2ヶ月以上も入院する大きな事故にあっています。もしこの時、スクールゾーンの安全が問題にされ、車の通行規制が行われていたらと悔しい思いで一杯です。そして響の事件後の8月にも、また被害が出ているのです。
私はスクールゾーン内での事故は絶対に起きてはならないと思います。登下校時の車両通行は禁止にし、他の時間帯も片側を止めて通り抜けができないようにすべきではないでしょうか? なぜ1人の人間の命が奪われているのに、すぐ実行して頂けないのでしょうか? 10人、100人、1000人、まとまった人間が亡くならなければ実行して頂けないのでしょうか?
10月27日、私の町内の回覧板にて、スクールゾーン内へ車両通行禁止の要望書が回って来ました。事故後、周りの「飛び出しでは」という受け止めに傷ついていましたが、事件から3ヶ月以上もたった今ようやく動きが見えてきました。しかし、このスクールゾーンの通行規制については、本校(北郷小)だけの問題ではないと思います。全市、全道、全国で、スクールゾーンでの犠牲など二度とあってはならないと思います。この件は徹底して下さい。
車の利便性のためにあまりに命が軽く扱われている今の社会はおかしいと思います。我が子が無事に成長してほしいという全ての親の願いに応え、スクールゾーンだけでなく、商店街、住宅街においても、歩行者、自転車、子ども、お年寄りを守る二重三重の安全対策を徹底して下さい。
息子は泣き声一つ上げることも出来ず死んでいったのです。この何も言えずに死んでいった響にかわってお願いします。犠牲を無駄にしたくはありません。
響は将来を夢見、「沢山の人を守る、助けるんだ」と私に言葉を残してくれました。響は、自分の命をかけて「変えなきゃだめだよ、危ないよ」と教えてくれたと思っています。これが響の正義感だと思います。
登下校時はスクールゾーン内へ車両を通行禁止にして下さい。
道路は子どもやお年寄り、歩行者を優先して下さい。
どうか、次の犠牲者が出る前に対策を考え、即実行して下さい。お願いします。
竹田 彩
大切な子供を交通死から守るために、厳罰を求める要望書
札幌地方検察庁 殿
平成15年7月17日、札幌市白石区北郷3条5丁目5番の北郷小学校校門前のスクールゾーンの道路上で、札幌市立北郷小学校1年生 竹田 響君(6歳)を死亡させた交通事故は、直接の被害者やその家族だけでなく、地域住人、子供を持つ親、教育関係者など多くの人たちにも衝撃となった事件でした。
それは、交通弱者である児童や歩行者がどんなに交通安全に気をつけていたとしても、本件の加害者のような無謀運転者がいる限り、我が身を守れないということを示し、地域社会の安全を大きく脅かす事件だったからです。
また、車が凶器と化した交通殺人事件であるにもかかわらず、その多くは窃盗や詐欺よりも軽い罪で裁かれていることが、交通弱者を軽視する悪質な自動車運転者の横暴を助長させているという現実があります。本件の加害者も事件に対する反省が希薄で、正にこの状況を象徴する自動車運転者であります。
悪質な交通事犯に対しては厳罰をもって処分が為されなければ、悲惨な交通死亡事故の抑止はかないません。改正された刑法の「危険運転致死傷罪」や道路交通法の厳罰化も交通犯罪絶滅を願う社会的要請を受けてのものであります。
以上の状況をふまえ、未来を担う子供達や地域社会の安全の為に次のとおり要望します。
- なぜこのような事故が発生したのか、その事故原因を加害者の供述に偏することなく、厳正にかつ徹底的、科学的に解明してください。
- 事故原因など全貌が、裁判で具体的に公になるようにしてください。
- そのうえで、過失内容に応じた厳正な処罰を求めてください。
さらに私は、今回の事件について、以下の意見をもっています。
平成 年 月 日
住所
ふりがな
氏名
印
響ちゃん事件新聞報道
2003/07/18「北海道新聞」朝刊全道
小1下校途中はねられ死亡 札幌市白石区
十七日午後一時ごろ、札幌市白石区北郷三ノ五の市道を渡っていた同区北郷三ノ六、市立北郷小一年の竹田響君(6つ)が、同区○○さん(31)の乗用車にはねられ、頭などを強く打ち、間もなく死亡した。札幌白石署の調べによると、現場は同校正門近くの横断歩道のない片側一車線の直線道路で、○○さんは信号待ちをしていた交差点を発進後、約二十メートル先で竹田君をはねた。同署は、○○さんが、道路右側から渡ろうとした竹田君に気付くのが遅れたとみて調べている。この日は父母懇談があったため、通常より早く午前中で授業が終了。竹田君は給食を食べた後、下校中だった。
2003/08/13「北海道新聞」朝刊全道
白石の小1交通事故死 情報提供呼びかけ
無念晴らす目撃証言を 速度、信号、ブレーキ…両親「加害者の話に疑問」
札幌市白石区の北郷小学校の校門前の市道で七月、会社員竹田佳文さん(30)の長男響ちゃん(6つ)=同校一年=が死亡した交通事故で、竹田さんと妻の彩さんが「加害者の証言に疑問がある」とし、目撃情報を募っている。十二日には事故現場に看板を立て、情報提供を呼び掛けた。「どうして犯人は逮捕されないの」。夫妻の長女麗ちゃん(7つ)が弟の遺影に目をやりながら問い掛けた時、佳文さんは言葉が見つからなかった。
「車であれば人を殺しても罪にならないのか。響が悪かったかのように言われるのは納得できない」。佳文さんは振り絞るような声で訴える。事故が起きたのは七月十七日午後一時ごろ。父母懇談会で授業が午前中に終わったため、事故当時、校門前は父母や下校する子供たちが多数行き交っていた。響ちゃんは市道を挟んで向かい側の北郷こども公園で姉と待ち合わせていた。札幌白石署などによると、響ちゃんは校門前の丁字路を渡ったところ、白石区内の主婦の乗用車と衝突し、数メートル引きずられたうえ、前輪に体をひかれ、間もなく死亡した。現場にブレーキ痕はなかった。
丁字路の南東側に押しボタン式信号機がある。主婦は警察の調べに対し、信号で停止し、青信号になって発進した後に響ちゃんをはねたとした。「このままでは加害者の証言通りに事故を組み立てられてしまう」と危機感を持った竹田さん夫妻は目撃者を探しだして話を聞き、主婦にも当時の状況をただした。現場はスクールゾーンで制限時速三十キロ。複数の目撃者が「乗用車はかなりの速度だった」と証言した。
夫妻によると、主婦は夫妻と会った際、「青信号を確認して信号を通過しましたが、対向車の陰にいた響ちゃんに気付かなかった」と当初と違う言い方をした。竹田さん夫妻には「響が道路を横断した時、歩行者側の信号は本当に赤だったのか」「脇見運転はなかったのか」との疑問がぬぐえない。
目撃情報を募るビラを父母らに配ろうとしたが、学校側は「子供たちのショックが大きいので、事故のことは蒸し返さないでほしい」と拒否した。警察からは「目撃者がいないと、これ以上捜査できない」と言われ、看板を立てることにした。竹田さん夫婦は「どんなささいなことでもいいから教えてください」と呼び掛けている。目撃情報は竹田さんへ。
【写真説明】事故の起きた北郷小の校門前に看板を立てる竹田佳文さん。その向こうで妻の彩さんが事故現場に花を添える
2004/2/17「北海道新聞」
小1交通死 母親が運転手を告訴「本当のこと調べて」
昨年七月、札幌市白石区の市道で竹田響君=当時(6つ)、札幌市立北郷小一年=が乗用車にはねられ死亡した事故で、母親の竹田彩さん(29)が十六日、業務上過失致死容疑で書類送検された無職女性(32)を札幌地検に告訴した。告訴状によると、女性は事故を起こした交差点でいったん停止し、青信号で発進、響君をはねたと話し、警察の捜査もこれを前提に行われている。
しかし、女性の車が交差点で停止していないとの目撃証言があると指摘し、より厳正な捜査を尽くしてほしいとしている。竹田さんは「息子は四、五秒で渡れる道路を横断中、はねられた。事故時の車の速度など本当のことをきっちり調べてほしい」と話している。札幌白石署の調べでは、響君は昨年七月十七日午後一時ごろ、同校正門近くの道路を横断中に女性の乗用車にはねられ、頭などを強く打ち死亡した。(椎名宏智)
2005/6/9「毎日新聞」
控訴を要請、民事提訴へ
札幌市白石区で03年7月、小学1年の男児を車ではねて死亡させたとして業務上過失致死の罪に問われた同市内の無職女性(33)の判決公判が8日、札幌地裁であり、川田宏一裁判官は禁固1年・執行猶予3年(求刑・禁固1年)の有罪判決を言い渡した。死亡した竹田響君(当時6歳)の母彩さん(30)=同市豊平区=は判決後、「スクールゾーンで起きた事故なのにあまりに軽い刑」と述べ、検察側に控訴を要請するほか、民事訴訟を起こす考えを示した。
判決などによると、響君は03年7月17日午後、学校前の市道を横断中に女性の乗用車にはねられ、頭を強く打ち死亡した。響君は下校途中で、横断歩道のない道路を横断しようとしていた。川田裁判官は判決で「(女性は)下校児童が多数いるのに、注意義務を怠った」と指摘したが、「(響君が)駆け足で横断していたのも事故の一因」などと述べた。これに対し、彩さんを支援する「北海道交通事故被害者の会」の前田敏章代表は「道交法は運転者に対し、児童の歩行を妨げないよう規定しているのに、響君の過失を認めるのは疑問」と指摘した。【真野森作】
2005/06/09「北海道新聞」
札幌の小学生交通事故死 究明目指し民事提訴へ 遺族
2003年7月、札幌市白石区の北郷小学校校門前の市道で竹田響君=当時(6つ)同小1年=が乗用車にはねられ、死亡した事故で、母親の竹田彩さん(30)は8日、乗用車を運転していた女性(33)への判決を受け、この女性に対し、今秋にも民事訴訟を起こす方針を明らかにした。
同7月17日午後1時ごろ、響君が校門前のT字路を渡ったところ、女性の乗用車と衝突。響君は数メートル引きずられ死亡した。女性が「交差点で一時停止し、青信号で発信した」と供述したことから、竹田さんは厳密な捜査を求め、04年2月、札幌地検に刑事告訴。地検は今年3月、女性を業務上過失致死の罪で札幌地裁に在宅起訴した。8日の判決公判で、川田宏一裁判官は女性に禁固1年、執行猶予3年(求刑・禁固1年)を言い渡した。
判決後に記者会見した竹田さんは「判決は、響が道路に飛び出した過失があったとし、執行猶予にしたことは納得できない」と述べ、民事訴訟について「刑事裁判では不十分だった事故の真相を究明したい」と話した。