論考・発言

【2】2005/2 交通犯罪被害者の願い(内閣府ヒアリングでの発言)

2005年2月23日

交通犯罪被害者の願い -要望事項と重点課題-

内閣府、犯罪被害者等施策推進準備室のヒアリングでの発言
2005年2月23日 於:経済産業省別館

北海道交通事故被害者の会 前田敏章

交通事故被害者のおかれている現状と願い

 北海道交通事故被害者の会の代表を務めています前田です。
 北海道という地域で活動を進めている立場から、交通犯罪被害者の願いと交通犯罪被害者に特有な問題について申し述べます。

 私は遺された親です。長女は学校帰りの歩行中に、前方不注視の運転者によって轢かれ、わずか17歳で、その全てを奪われました。
 9年経った今も、娘の無念を思うたびに胸が張り裂けそうになり、世をはかなみ、抜け殻になりそうな日々ですが、毎日手を合わす娘の遺影からは今も「私はなぜこんな目に遭わなくてはならなかったの?」「私がその全てを奪われたこの犠牲は今の社会で報われているの?」と問いかけられています。

 私の生きる支えは、遺された親として、この問いかけに応え、犠牲を無駄にしないためのとりくみをやり抜くことですが、私たち被害者、遺族の思いは皆共通です。奪われた肉親をあるいは健康な体を、返して欲しい、それが唯一の望みです。それが叶わぬならせめて犠牲を無にせず、交通犯罪被害を生まない社会を実現して欲しい、それが亡き肉親の魂の慰撫になると信じています。

 北海道交通事故被害者の会は、6年前、道警交通部が編集した手記集発刊を機に、手記に応募した被害者が発起人となって発足しました。現在約110名の会員がおりますが、8割が遺族、2割は自身が怪我をされた方です。会は、道の交通安全協会から運営費補助を受け、相互支援と交通犯罪撲滅の二つを柱に活動を行っています。概要はお手許の資料をご覧下さい。
 私たちは、2002年11月に「交通犯罪撲滅、交通事故被害ゼロ、被害者支援のための要望事項」をまとめ、道知事と道警に提出しました。お手許の資料にもありますが、ここに盛られた22の項目は、こうした措置が執られていれば、私たちのような犠牲は無かったという痛切な思いをまとめたものです。

 限られた時間ですので、この中で特に強調したいことを述べさせていただきます。
 第1には、前提問題、ベースにしていただきたいことですが、交通犯罪を「事故」と一括りにするのではなく、正しく犯罪と位置づけていただきたいのです。

 この点では、犯罪被害者等基本法がその第二条で「犯罪等」を「犯罪及びこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす行為」と明確に定義されたことに安堵し、また本日のヒアリングに呼ばれたことと併せ、希望の光を見いだしているものですが、現在の社会の受け止め、行政や司法の扱いはそうなってはおりません。
 根底にあるクルマの効率優先、ドライバー中心の「クルマ優先社会」と起訴率低下をもたらした非犯罪化政策、そして、損保を中心とする「命=お金」の巨大なシステム。これらが、殺し殺されの日常を異常としない、麻痺した社会をつくり、命が軽く扱われ続けているからです。
 「故意でなく『事故』だから、悪質でない」として、加害者が存在しないかのような扱いが大手を振り、「加害者天国ニッポン」となっているのです。

 私の娘のことで言いますと、公道において、何のいわれもない人に何の過失もないのに、突然命を奪われたわけですから、どう考えても「通り魔殺人」の被害に遭ったとしか思われません。しかし、娘をひいた加害者は、執行猶予3年がついて刑務所にも入っておりません。当時の裁判長は、「数秒間のほんのちょっとした不注意による、往々にして起こる『事故』だから」と情状酌量の「理由」を述べました。
 かけがえのない宝である我が子を理不尽に奪われ、その罪が、例えばバイクを数台盗んだ罪よりも軽く扱われたという不条理。これでは娘は浮かばれない、その思いは今も強くなるばかりです。

 法令違反を伴っての死傷事件は、クルマを凶器とした不法行為であり犯罪にほかなりません。「事故」とは、運転者に全く違反や過失がなく、避けられない災害の場合に限定して使うべきであり、安全確認を怠っての前方不注意など交通犯罪は「未必の故意」として厳罰に処していただきたいのです。
 その意味でも危険運転致死罪は「故意性」という要件を緩和して、適用を飛躍的に増やすべきです。窃盗罪の半分の量刑でしかない業務上過失致死傷罪とは別に「自動車運転業務上過失致死傷罪」を設けるなど、交通犯罪に特化した刑罰の体系を作り、命の重みに見合う裁きをしていただきたいのです。

 第二に、基本法18条、刑事に関する手続への参加に関する点ですが、先ず、公正な捜査が保障される制度確立として、交通事故調書の開示を求めます。
被害者・遺族は故人の名誉と命の尊厳のために、何より先ず事件の原因など真相を知りたいと願い、そして真実に基づく厳正な裁きを求めるのです。しかし、現状では、不当に軽く扱われ、被害者の知る権利はないがしろにされています。被害者が死亡あるいは重傷で証言できない場合は、初動捜査において「死人に口なし」とばかりに、加害者の一方的な証言に沿って実況見分調書など証拠書類が作られるという事例が頻発しているのです。
 お手許の資料(札幌弁護士会への関係資料)の事件例一覧にあるように、2001~2003年に発生した会員14事例の調査だけでも、起訴までに6か月以上を要した事件が11件あるのですが、このうち9事例の遺族は、捜査機関からの事故原因の説明に納得がいかず、捜査等に関して上申し、自らも目撃者を探すなど真相解明に動き、7遺族は自ら事故鑑定も行っています。告訴し当事者性を高めて対処しようとした事例は6遺族、要望書や署名を提出した遺族も7遺族に上ります。

 自ら強い働きかけを行ってはじめて、真相の一端に近づくことが出来るのですが、この場合でも初動捜査の不公正が改められないまま刑事裁判が進行するケースが殆どです。遺族が血の滲むような取り組みを行い、業過から危険運転致死罪での起訴に変わったという例もありますが、こうしたとりくみのできる遺族は限られており、多くの場合は泣き寝入りです。

 不公正な捜査の改善は、会の発足当初のアンケートでも最も多い要望項目でしたが、資料の最近の二つの報道記事(白倉さんと長谷部さんの事例)にもあるように、今も変わっておりません。報道記事の白倉さんご夫妻はまだ捜査中なのですが、「遺族がここまでやらなければ真実に近づけないのか。せめて調書が開示されていれば」と悲痛な思いを語っています。
 交通犯罪の被害者・遺族はかけがえのない命や健康を奪われた上に、事故の原因など真実を知ることができず、さらに「死人に口なし」の捜査によって、著しい不公正と不利益を被るという、正に二重三重の苦しみを余儀なくされています。

 私たちは、去る2月14日、法務大臣、国土交通大臣、札幌高等検察庁などに、要請文を提出しました。
 法務大臣に要請したのは、警察が作成する実況見分調書など交通事故調書、および鑑定報告書を、当事者の求めに応じ、送検以前の捜査過程の早期に開示することです。また国土交通大臣には、公正で科学的な捜査を保証するために、航空機のフライトレコーダーに相当するドライブレコーダーの装着義務化を要請しました。
 これらは、被害者の知る権利を保障し、予断を持った捜査を監視することになり、不公正を生まないシステムとして重要です。
 同時に私たちは、刑事裁判に参加する権利を認めていただくことも強く望んでいることを付け加えておきます。

 第三に、負傷した方の問題です。
 死亡数がわずかに減っている背景に、高次脳機能障害などを負い、治療と生活に困難を極めている人の増加がありますが、怪我をされた方の深刻な人権侵害の実態があります。まだ治癒していないのに損保から症状固定を強要され、十分な治療が受けられなかったり、後遺症の認定等級が不当に低く押さえられ、賠償も値切られるという二次的被害が絶えません。損保会社への適正な管理と指導を強め、不法行為が根絶やしされ、適切な損害賠償が保証される制度を望みます。そして脳外傷などを重大な後遺障害と認定し、治療と生活保障を万全にすることも切実な願いです。

 第四は、被害者および自助グループへの直接的な支援の課題です。
 交通犯罪被害者は突然襲われる悲劇に加え「事故だから仕方ない」「加害者も大変」という世間の無理解と偏見、さらに先ほど述べた二次的被害も受け、正に孤立無援の状況に陥ります。殆どがPTSDに悩んでおり、この辛さは例えば家族の間でも、もはや互いを理解し支えるという余力を奪ってしまうものであり、社会生活自体を困難にさせます。被害者、遺族は事件の直後から、それぞれの時期、段階で、求めに応じたサポートを必要としています。

 その一つは私たちの会のような自助グループの活動を物質的に支援する対策です。私たちの北海道の会はある意味恵まれています。設立に際し道警の支援を受け、設立後は自主的活動に対し、道の交通安全協会が事務所と兼務の事務局長、および活動費を提供してくれているからです。この会が出来たことによって、はじめて気持ちの分かり合える仲間と出会い、心おきなく相談、交流出来る場が得られました。どれだけ多くの人が救われているか知れません。しかし、安全協会が自助グループを財政的に支援するというのは本来的ではありません。国からの正当な財政支援を早急にお願いしたいのです。

 同時に私たちは、行政や専門家が連携してサポートし、施策を進める公設の「犯罪被害者支援センター」が北海道にも作られることを切望しています。この支援センターの活動内容や運営には、被害者の声が直接に反映されることを求めますが、自助グループへの支援と会わせ、基本計画の中に位置づけていただきたいと思います。

 もちろん、私たちの願いは交通犯罪や事故の被害がゼロとなり、自助グループそのものの必要がなくなる社会です。
 私は、そのためにも、今後、真に被害者の視点に立った施策が全面的に推進されることが、基本法前文にいう、「犯罪等を抑止し、安全で安心して暮らせる社会の実現」につながると確信しております。

 私たち被害者、遺族は、孤立感と絶望感に苛まれながらも、ようやくの思いでお互いに連絡しあい、「生きることがたたかいなのだ」と励まし合い、声をあげ始めています。一日も早く、犯罪被害者の共通な願いである、知る権利(事件がなぜ起こったのか、加害者のこと 裁判のことなど)司法手続きに参加する権利(裁判で意見陳述する。 証人に質問する)被害回復する権利(謝罪、損害賠償、国からの支援など)二次被害を受けない権利(犯人扱いされない、プライバシイー、加害者から仕返しされないなど)が保障される日が来ることを切望しています。よろしくお願いいたします。ありがとうございました。

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