論考・発言

【12】2015/11 内閣府主催「第10交通安全基本計画(中間案)に関する公聴会」での公述人意見

2015年11月6日 中央合同庁舎8号館第1階講堂 
北海道交通事故被害者の会 代表 前田敏章

 北海道の会は、発足以来、被害根絶のための活動を重視してきました。よろしくお願いいたします。
 私の長女は、前方不注視の車に後ろから轢かれるという、通り魔殺人的被害に遭い、わずか17歳で、その全てを奪われました。20年経ちましたが、長女の無念を思う悲しみと苦しみ、加害者への憎しみに何の変わりもありません。楽しい明日を考えることができず、抜け殻のようになった自分を自覚します。犠牲を無駄にしてほしくない。娘から託された使命を果たすためだけに生きています。
 私たちの共通の思いは、こんな悲しみ、苦しみは、私たちで終わりにしてほしい、この一言に尽きるのです。
 私は、被害の深刻さというのは、単年度の数ではなく、累積で見るべきと思います。戦後70年間での交通死者は90万人を超えました。負傷者は4,300万人にも及びます。物質的には豊かになったと言えるかもしれません。しかし、肝心な心の豊かさは、人と人との関係性はどうでしょうか。悲しみ、苦しみ、憎しみの情は、交通死傷によって広く、深く社会に積もり続けているのではないでしょうか。
 意見の要点は3つです。命の尊厳を第一義とした目標値に修正していただきたい。速度の抜本的抑制と規制をその基本に据えていただきたい。そして、生活道路での交通静穏化を直ちに実現し、歩行者や子供、高齢者の命を完全に守り切る社会にしていただきたい。この3点です。
 このことにつきましては、これまでも何度もパラダイム転換の必要性として強調させていただいたところです。
 北海道では、毎年11月の第3日曜日、世界道路交通犠牲者の日にフォーラムを開催し、お手元の資料にもある「ゼロへの提言」に、その思いを集約してきました。ぜひ、お酌み取りください。
 まず、目標値についてです。ゼロを見据えた中期目標、これを再設定し、目標値を上方修正、減らしていただきたい。日本学術会議が2008年に提言した中期目標は、死傷者数を10年間で10分の1とするもので、それに向けてのロードマップを示していました。大変貴重な提言だったと思います。
 お考えください。本来、豊かな生活のための道具であるべき車が、今なお、年間70万人もの人を傷つけ、6,000人もの命を奪う凶器ともなっている。被害数は、身体犯被害数の96%を占める、これは、まさに異常なことだと捉え直さなければなりません。利便性のために、ある程度の犠牲は仕方ないというクルマ優先社会の感覚麻痺を改めていただきたい。
 中間案の目標値では、5年間で~厚生統計に修正していますけれども~1万8千人以上の交通死、250万人以上の負傷者を「仕方がない」と容認し、クルマ優先社会の感覚麻痺を追認することにもなると思います。
 これまでの関係方面の御尽力で、減り続けていることは重要です。しかし、市民が感じているのは、日常的被害への恐怖です。危険な状況を紹介します。
 毎年、命の大切さを学ぶ教室で行っている札幌の高校での調査結果です。高校3年生、18歳になるまでに、半数以上が歩行・自転車乗車中にクルマにより身の危険を感じています。そして、およそ1割、10人に1人が、実際に事故に遭い、入院や通院、この赤の部分ですけれども、これはおよそ100人に1人になります。まとめると、こういう数字になります。生徒は、こんな感想を述べています。
 こんな現状は変えなければなりません。パラダイム転換を支持する世論の変化も近年顕著です。犯罪被害者等基本法から10年、被害者の視点に立った施策が各分野に広がっているからです。私たちが道内で行ってきた体験講話は、中高生を中心に、この16年間で850回、17万人にも及びます。
 中間案6ページの国民意識のグラフでは、被害数は減っていながら、「交通事故情勢の悪化と感じている人」が、5年前より7ポイントふえて39.2%、事故の大幅減少を願う声は85.4%、圧倒的多数の国民です。こうした意識変化にも依拠すべきと思います。
 第2は、これまで膨大な犠牲を強いてきた高速文明を見直し、抜本的な速度抑制と外部規制、これを実現することです。レール上をATS付きの車両を走らせる鉄道輸送に比べ、歩行者がいる道路を、不安定な人の認知、判断、操作に委ねて走る車の危険性、これは明白です。安全と速度の逆相関関係も証明済みです。危険な速度での走行をさせないように、中間案では、「先端技術の活用推進」が強調されていますが、既に実用可能な技術を速度の抑制と規制に生かすこと、このことこそが求められていると思います。段階別速度リミッター、ドライブレコーダーの装着義務化などにより、安全な速度管理、これを徹底すべきです。飲酒運転をさせないためのインターロックも含め、お願いしたいと思います。
 第3の生活道路の交通静穏化による被害ゼロの施策ですが、これは、中間案でも強調され、具体的にゾーン30、低速度規制という、今後、画期となる施策も明記されていることは大変重要で、心強く思います。
 求めたいのは、その推進・徹底の速度です。例えば、私たち被害者団体が交差点での構造死をなくしてほしいと求めた歩車分離信号の普及ですが、この効果は明らかであるにもかかわらず、導入推進がうたわれた8次計画から10年経た今も普及率は4%にとどまっております。貴重ではありますけれども。
 中間案には、平成15年より、引き続いて、「世界一安全な道路交通」という目標が11ページにありますけれども、一方で、歩行者及び自転車の被害率が欧米に比べて極めて高い。この遅れを、やはり8次計画以来、同様に指摘せざるを得ない。これは、おかしいと思います。先ほどの高校生の調査を思い起こしてください。「ゾーン30」と低速度規制、これは、間違いなく被害ゼロの交通社会実現にとっての柱となる施策ですので、速やかな普及と徹底の方策も明記すべきと考えます。
 これは、私のうちの近くの札幌市で新たに指定されたゾーン30です。貴重な一歩と感じました。
 しかし、この指定は、広く面的なものではなくて、極めて狭い線的な指定にとどまっているのです。市内全域がゾーン30となり、車は歩道が整備された限られた幹線道路のみ例外的に40から60キロ以内の指定速度で走らせることができる。こういうシンプルで安全な社会が求められていると、私は思います。
 ヨーロッパでの進んだ取り組みに学び、「道路=車道」の観念から脱却させる計画にしなければならないと思います。これは、ヨーロッパでの住民用街路の標識です。これは、車道を削って自転車道を整備し、車道と自転車道と歩道の幅が1対1対1になっています。これは、車は歩くような速さで走らせましょうという標識です。
 課題は、ほかにもあります。安全運転の問題、刑法の問題、免許制度の問題、多々ありますけれども、今期の安全計画につきましては、パラダイム転換を明記した10次計画にしていただきたい。交通死傷ゼロの社会の実現こそが、真の社会進歩である。そのことを私は確信します。目標値の見直し、そして、中間案5ページに8つの柱がありますけれども、この1番目に速度の抜本的抑制、そして、2番目に生活道路の交通静穏化、これを明記するなど、パラダイム転換が浮き彫りとなる計画にしていただきたい。そのことを切にお願いいたします。

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