交通死ー遺された親の叫びⅡ(最新〜2013) 世界道路交通被害者の日

【報告】ワールドディ 北海道フォーラムに60人(11月19日報告)

2015年10月2日

11月15日、「交通死傷ゼロ」を願うフォーラムに60人

 「交通死傷ゼロへの提言」をテーマとした「世界道路交通犠牲者の日・北海道フォーラム」は、11月15日、札幌市中央区の「かでる2・7」を会場に、60人を超える参加者で成功裡に終えることができました。以下概要の報告です。

 主催者挨拶(前田)では、最初に14日夜東京タワーを前にワールドディ日本フォーラム(準備会)などが主催して行われたキャンドルナイトの様子を映し出し、全国の取り組みと連帯したフォーラムであることを述べ、次に、第10次交通安全基本計画の中間案に対する公聴会(11月6日)の公述人として、本フォーラムで採択されている「交通死傷ゼロへの提言」の主旨

  1. 死亡・重傷ゼロを究極ではなく中期目標として掲げ、その過程としての5年計画目標値を定めるべきこと。中間案の目標値(死者2500人)を見直してほしい
  2. 速度の抜本的抑制と規制
  3. 生活道路での歩行者優先と交通静穏化~ゾーン30などの早期普及と徹底~

を強調して要望したことなどを報告しました。

第1部、「ゼロへの願い~こんな悲しみ苦しみは私たちで終わりにしてください~」

 第1部、「ゼロへの願い~こんな悲しみ苦しみは私たちで終わりにしてください~」
では、3人の被害者・遺族の方がメッセージ。

 千歳市の小林三千男さんは、「母の無念を想う」と題し、88歳という高齢運転者の漫然運転によって、横断歩道を青信号で渡っていて轢かれたお母様(京さん、当時83歳)の無念を語り、高齢運転者の問題をあわせて提起しました。
 小林さんは、加害者が事故後1週間ほど経ってから最初の供述を自分に都合よく変えた嘘の言い逃れを正すために、何度も現場に足を運び目撃者を探し、刑事裁判では被害者参加して被告の不誠実も明らかにしました。

 札幌市の黒川和子さんは、44年前17歳で、酒気帯び運転の車に轢かれ40日間の意識不明という重傷被害(頭部挫傷、頭蓋骨骨折、全身打撲)を受け、奇跡的に助かったものの、今も「び慢性脊索損傷」などで全身の痛みに苦しむ毎日であること、加害者の不誠実、刑事司法や医療の問題なども指摘し、「加害者の罪に対する国の時効はあっても、被害者に対する傷害の責任は消えない」など涙ながらに切々と訴えました。

 続いて白倉裕美子さんは、昨年7月13日の小樽事件を繰り返すなと飲酒運転根絶の道条例制定を求めてきた被害者連絡会として、経緯と要望内容を報告。今月26日開会の定例道議会で共同で提案される全会派案にどのように反映されたかなど述べ、基調講演につなげました。

第2部「ゼロへの提言」は基調講演~「飲酒運転根絶と交通死傷ゼロへの課題」

 講師は、6月に北大の学生団体が主催した「飲酒運転のない北海道をめざすシンポジウム」にも来札願った法社会学が専門の愛媛大学小佐井良太准教授。氏は現在「総合的な飲酒運転対策としての飲酒運転根絶条例の実効性の検討」を中心テーマに研究をされており、「飲酒運転根絶と交通死傷ゼロへの課題」と題し、1時間に亘って「飲酒運転根絶の考え方、「半歩」踏み込んだ施策の検討、交通死傷ゼロに向けて」という中項目で講演。飲酒運転根絶を個人の事後的処罰から社会問題として未然防止(予防)へシフトさせること、住民や特定業者などそれぞれの主体の「責務」を明確にし、それを果たすための実効的「支援」が求められること、「半歩」踏み込み、アルコール健康障害対策基本法との関連で、アルコール専門医療との連携で、また、教育的施策、警察・公安委員会との連携、飲食店や事業所での取組み連携など具体的に提言されました。最後に「全ての交通犯罪を許さない社会の実現、交通死傷ゼロこそが目標」「1人1人が半歩踏み出すことでクルマ優先の社会から人命優先へ、それはきっと実現できる」と結び、参加者全員に指針と大きな勇気を与えてくれました。

  小佐井准教授の基調講演内容は

第3部「ゼロへの誓い」

 会場討議で弁護士、研究者、市民団体などから貴重な発言を受けたあと、来賓の道くらし安全課 安海課長、道警交通部 髙瀨管理官より力強い決意のご挨拶を受け、最後は、いのちのパネル展実行委員長の小野さんの閉会挨拶で、熱意あふれる3時間のフォーラムを閉じました。

新聞記事

北海道フォーラムを報じる「北海道新聞記事」

北海道フォーラムを報じる「北海道新聞記事」

港区芝公園で行われたキャンドルナイト

11月14日、東京タワーのある港区芝公園で行われたキャンドルナイト(日本フォーラム準備会主催)

港区芝公園で行われたキャンドルナイト

交通死傷ゼロへの提言

 以下は、今年も採択された「交通死傷ゼロへの提言」です。

交通死傷ゼロへの提言

2015年11月15日 世界道路交通犠牲者の日・北海道フォーラム

 近代産業社会がモータリゼーションとともに進行する中で、人々の行動範囲は飛躍的に拡がり、欲しいものがより早く手に入る時代となりました。しかし、この利便性を享受する影で、「豊かさ」の代名詞であるクルマがもたらす死傷被害は深刻で、命の重さと真の豊かさとは何かという問いが突きつけられています。
 わが国において2013年に生命・身体に被害を受けた犯罪被害者数は81万9266人ですが、このうち何と96%(78万5867人)は道路交通の死傷(死亡者数6,060人※厚生統計)です。この「日常化された大虐殺」ともいうべき深刻な事態に、被害者・遺族は「こんな悲しみ苦しみは私たちで終わりにして欲しい」と必死の訴えを続けています。人間が作り出した本来「道具」であるべきクルマが、結果として「凶器」のように使われている異常性は即刻改められなければなりません。このような背景から、国連は11月の第3日曜日を「World Day of Remembrance for Road Traffic Victims(世界道路交通犠牲者の日)」と定め警鐘を鳴らしています。
 交通死傷ゼロへの提言をテーマに本年も集った私たちは、未だ続く「事故という名の殺傷」を根絶し、「日常化された大虐殺」という言葉を過去のものとするために、以下の諸点を中心に、わが国の交通安全施策の根本的転換を求めます。

第1 交通死傷被害ゼロを明記した目標計画とすること
 憲法が第13条で定めているように、人命の尊重は第一義の課題です。現在の第9次交通安全基本計画の基本理念は「究極的には交通事故のない社会を目指す」とされていますが、「究極的には」でなく、中期目標としてゼロの実現を明記し、政策の基本に据えるべきです。
 減らせば良いではなく、根絶するにはどうするかという観点から、刑法や道路交通法など法制度、道路のつくり、対歩行者を重視した車両の安全性確立、運転免許制度、交通教育など関係施策の抜本的改善を求めます。この度改正施行された自動車運転処罰法も、人の死傷という結果の重大性に見合う内容へと運用も含めさらに見直しが必要です。
 私たちのこの主張は、単なる理想論ではありません。現に、スウェーデンでは、交通事故で死亡もしくは重症の外傷を負うことを根絶するという国家目標を「ヴィジョン・ゼロ」という名のもとに国会決議として採択しています(1997年)。そして、この目標を達成するための方法論と、その科学的根拠を示しています。

第2 クルマの抜本的速度抑制と規制を基本とすること
 これまでの長い苦難の歴史から私たちが学んだ教訓は、利便性、効率性、そしてスピードという価値を優先して追求してきた「高速文明」への幻想が、人々の理性を麻痺させ、真の豊かさとは相容れない危険な社会を形成してきたということです。安全と速度の逆相関関係は明白です。持続可能な共生の交通社会を創るための施策の基本に速度の抜本的抑制を据えるべきです。
 クルマが決して危険な速度で走行することがないように、今まで以上に踏み込んだ新たな規制が急務です。クルマ自体には、段階ごとに設定された規制速度を超えられない制御装置(段階別速度リミッター)や、航空機のフライトレコーダーに相当するドライブレコーダーの装着を義務化し、速度と安全操作の管理を徹底するべきです。さらに、ISA(Intelligent Speed Adaptation 高度速度制御システム)の実用化を急ぎ、二重三重の安全装置を施すべきです。
 これまで検討されてきたITS(Intelligent Transport Adaptation 高度道路交通システム)は、情報による効率的制御であるもののハード面での高速走行を前提にするという矛盾を抱え、安全性向上にどれだけ寄与しうるかは不明です。同様に「自動運転」の技術開発が、今後も多数存在するであろう「非自動運転車」の危険速度走行を免罪することになってはなりません。今あるクルマの速度規制こそが急がれます。

第3 生活道路における歩行者優先と交通静穏化を徹底すること
 道路上の子どもや高齢者の安全を守りきることは社会の責務です。人口当たりの歩行者の被害死が諸外国との比較において極めて高いのが現状であり、歩行者を守るためにまず取り組むべき課題は、生活道路における歩行者優先と交通静穏化(クルマの速度抑制)です。
 道路や通りは住民らの交流機能を併せ持つ生活空間であり、決してクルマだけのものではありません。子どもや高齢者が歩き自転車が通行する中を、ハードなクルマが危険速度で疾駆する日常は、その根本から変えなくてはなりません。幹線道路以外のすべての生活道路は、通行の優先権を完全に歩行者に与え、クルマの速度は少なくても30キロ以下に一律規制(「ゾーン30」など)し、さらに必要に応じて道路のつくりに工夫を加えて、クルマの低速走行を実現しなくてはなりません。これが欧州の常識であり、ドイツやオランダの都市では、完全に実施されています。このような交通静穏化は歩行者優先の理念の「学び直し」の第一歩であり、ひいては幹線道路の交差点における死傷被害の抑止に結びつくはずです。横断歩道のあるすべての交差点を歩車分離信号にすることも重要課題です。
 同時に、財源措置を伴う公共交通機関の整備を進め、自転車の更なる活用と安全な走行帯確保を緊急課題と位置づけるなら、道路の交流機能は回復し、コンパクトな街並みは活気を取り戻すでしょう。
 私たちは、交通事故による死傷をゼロにしたいと願っています。しかし、それだけではなく、現行の交通システムをより安全なシステムに改善することは、交通事故の被害者だけにかかわらず、もっと普遍的な市民や住民の生活の質をも豊かにすること、それはすべての市民の基本的人権の保障につながるということを主張しているのです。

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