2015.12.8.被告の不当な控訴は、即日棄却されました
札幌高裁は12月8日の控訴審で、被告の何の道理もない控訴を、当然ながら即日結審で、棄却の判決を言い渡しました。
判決骨子は以下です(※北海道新聞、2015年12月9日の報道による)
- 海津雅英被告の控訴を棄却する
- 飲酒の影響で正常な運転が困難な状態にあったとして、危険運転致死傷罪の成立を認めた一審札幌地裁の判断に不合理な点はない
- 無謀で危険極まりない運転で、被害結果が極めて重大。被告の謝罪や反省を考慮しても、量刑が重すぎて不当とはいえない
〈速報〉 12月22日、何と、海津被告は最高裁に上告しました
正に、言語道断です。結果の重大性と責任を認識できず誠意や反省のかけらもない被告に対する、被害者とご家族の気持ちを考えると、胸が痛んでなりません。
私たちは、こうした理不尽な加害者の姿をさらに広く伝え、最高裁決定という重みで、今回の懲役22年という刑罰に至った経緯も含め、真の正義は何か、社会全体のものにする必要があると思います。(12月23日 前田)
新聞記事
※控訴棄却を報じた地元紙
【北海道新聞 2015年12月8日夕刊 】
※ 以下は一審の報告です
2015.7.9 改めて感謝をこめて報告いたします
昨秋皆様に署名等ご支援ご協力いただいた小樽飲酒ひき逃げ事件ですが、7月9日、札幌地裁、佐伯恒治裁判長は海津被告に対し、危険運転致死傷罪での懲役22年(求刑も懲役22年)という極めて貴重な判決を言い渡しました。
ポイントの危険運転致死傷罪の成立について、裁判長は「15~20秒もの間、スマートフォンの画面を注視し続ける運転態様は危険極まりなく、(飲酒の影響によって)正常な運転が困難な状態にあったことは明らか」「著しい注意力の減退や判断力の鈍麻は酒の影響によるものとしか考えられない」などと(福岡事件の最高裁決定を踏まえた)成立理由を明瞭に断じました。
また、「普段から運転中にスマホを使っており、酒の影響は無かった」などの被告の嘘の言い逃れを一刀両断にして、情状の余地なく求刑一杯の量刑を科した理由を厳しい口調で述べました。
この裁判長の言葉に、危険運転罪の判決を確信をしながらも量刑についてなど実際に聞くまでは不安もあったであろう被害者参加人席の被害ご家族は、一様にほっと胸をなでおろすような表情でした。
傍聴席では、この日も無念の瓦裕子さん、石崎里枝さん、原野沙耶佳さんの遺影が、ご家族と支援の遺族に抱かれて判決を見届けました。
公判後の記者会見では弁護士とともに、被害ご家族(4家族7人)が並び、判決について
「良い結果となり、親としての責任を果たせた」(原野さん)。
「私たちのような思いをする人が少しでも減ってほしい」(石崎さん)
「(被告人質問をしたことで)悔しかったであろう娘の思いも伝えられて良かった」(瓦さん)
「今回の判決が(重傷を負った)娘にとって少しでも心の癒しになってくれれば」(中村さん)
と、その思いの一端を語りました。
記者会見には、高石洋子さんと前田も同席し、高石さんは
「被害ご家族の皆さんは、どんな重い量刑でも心は癒されません。娘さんに会いたいと言う思いで一生苦しみの中で生きて行きます。笑顔でお話しをされている様子を見ることもあるでしょう。でも、それはほんの一瞬の現実逃避にすぎません。1人になれば泣いているのです。そのことをどうかご理解いただきたいです。」
などと被害ご家族の心情を代弁し、
前田からは声明文(最下欄)を読みあげる形で、昨秋の要請署名活動に協力頂いた方へのお礼も含めコメントしました。
判決を報じた北海道新聞1面と判決要旨(同5面)は以下です。
※真実と正義を訴えた(被害ご家族の)意見陳述
被害者参加人である4家族5人が結審の日(7月3日)に行った意見陳述は、(7月2日の被害者参加人としての直接の被告人質問と合わせて)被告の嘘の供述による言い逃れを決して許さず、法廷を真実に基づく正義の場とする上で極めて貴重な内容でした。意見陳述が行われたその時間、法廷は厳かな鎮魂の場でありました。
裁判員の皆様の胸にも深く響いたであろう魂からの叫びを、北海道新聞は翌7月4日、2ページを使い全文を掲載しました。
★こちらのPDFで読むことができます。→→→小樽飲酒ひき逃げ公判 被害者家族の意見陳述
★被害ご家族による被告人質問に関して、被害者参加弁護士、山田廣弁護士の一文 ⇒ 「検察官の説明義務について」
7月23日、被告は控訴
被告は判決を不服(危険運転致死傷罪ではなく、わき見による過失運転致死傷罪を主張)として、札幌高裁に控訴しました。
法廷での、あくまで罪を認めず言い逃れの嘘の供述を繰り返し続けた言動から、控訴の予感はありましたが、言語道断です。
被害ご家族の心中を察するに、許せません。どこまで被害者と家族を痛め続けるのでしょうか。
一刻も早い控訴棄却の高裁判決を求めます。
2015/07/10 北海道新聞
小樽飲酒ひき逃げ判決(要旨)
【危険運転致死傷罪の成立を認めた理由】
被告は事故前日から睡眠をとらず、当日の午前4時30分ごろから正午すぎまでの7時間半近く、つまみを口にすることなく、分かっているだけでも生ビール中ジョッキ4杯、缶酎ハイ4、5缶、焼酎のお茶割り1杯を断続的に飲み続け、完全に酔いつぶれた。
2時間程度寝込んだ後も海の家の厨房(ちゅうぼう)に全裸で入るなど、第三者から見ても、まだ酒が残っているとうかがわれる行動をとっている。運転開始直前でも「まだ二日酔いのような状態で体がだるく、目もしょぼしょぼしていた」というのだから、酒の影響による体調の変化を自覚するほどの酔いが残っていたと認められる。
現に事故から44分後に呼気1リットル当たり0・55ミリグラムのアルコールが検出されたほか、警察官の事情聴取中にうとうとしたり、逃走経路を正しく案内できなかった。
現場の直線道路に入ってから衝突地点までは約440メートル。被告が立ち会った実況見分によると、約160メートル手前から被害者らを人として認識可能だった。被告は時速50~60キロで車を進行させ、被害者4人を次々とはね飛ばした。
被告は直線道路に入って3、4秒後にズボンのポケットからスマートフォンを取り出した。途中で2回顔を上げたというものの、被告人質問で再現した動作を見る限り、単に顔を上げただけで前方確認とは到底言えない。ほぼ画面だけを見続けるような運転だった。被告の証言を基に計算すると、画面を見続けていた時間は15~20秒となる。
そもそも時速50~60キロで車を走行させながら、15~20秒も下を向き続ける運転態様自体が、「よそ見」というレベルをはるかに超える危険極まりない行動だ。自殺行為に等しく、正常な注意力や判断力のある運転者であれば到底考えられない。正常な運転が困難な状態にあったことが客観的に見て明らかだ。
異常な運転は、表面的にはスマホの操作によるものだが、注意力や判断力をほぼゼロに等しいくらいに失っていたからにほかならない。被告は歩行者が通ることもあると分かっていたのに、歩行者の確認について全く意識すらしていなかった。単なる油断では説明が付かない著しい注意力の減退や判断力の鈍麻は、常識的に見て酒の影響によるものとしか考えられない。
被告は「酒が残っていなくても今回の事故を起こしていた」と述べるが、あれだけの運転をしながら、何の根拠で酒の影響が全くないと言い切れるのか理解に苦しむ。アルコールの影響で正常な運転が困難な状態で車を走行させ、人を死傷させたことは明らかだ。酒による体の変調を自覚し、危険な行為も余すところなく認識しているのだから、故意も問題なく認められる。 なお、被告は「普段もスマホを操作しながら運転することがあった」とも述べている。仮に被告が今も普段のよそ見と同じと考えているなら、運転とは名ばかりの行為を運転と言うに等しく、常軌を逸している。
【刑を決めた理由】
高校時代からの仲良し4人組だった被害女性らは海水浴を楽しんだ後、危険運転の犠牲となった。被害者や遺族の思いは、このような悲惨な事故がいかに多くの人の人生を狂わせ、どれだけ時間がたっても癒やすことができない深い傷を与えるものかを物語る。
今回の事件は、アルコールの影響による危険運転の類型の中で、これまでの例を相当上回る重みがあると考えられるし、ひき逃げまでしている。被告が謝罪していることなどを考えても、懲役22年が相当だ。
声明
小樽飲酒ひき逃げ事件の被告に対し、札幌地栽が危険運転致死傷罪(自動車運転処罰法第2条1号)適用の判決を下したことについて(声明)
2015年7月9日
7・13小樽飲酒ひき逃げ事件被害者等連絡会
石崎 孝(被害者遺族)
瓦 明子(被害者遺族)
原野 和則(被害者遺族)
中村 清春(被害者家族)
高石 洋子 (飲酒・ひき逃げ事犯に厳罰を
求める遺族・関係者全国連絡協議会共同代表)
前田 敏章(北海道交通事故被害者の会代表)
(札幌地検が当初は過失運転致死傷罪で起訴したため、危険運転罪への訴因変更を求めて、要請・署名活動を行った「連絡会」として)本日の判決で、危険運転罪の主旨と福岡事件の最高裁決定※が正しく生かされることとなり、先ずは、ほっと安堵しております。裁判長はじめ裁判員の方が下した厳正な判断に敬意を表します。
※福岡事件の最高裁決定:「アルコールの影響により正常な運転が困難な状態」の判断基準のうち、最高裁が重視しているのは、何よりも「事故態様が正常な状態にある運転者では通常考え難い異常なものかどうか」という点であり「直接の過失が脇見であること」は、「アルコールの影響により正常な運転が困難な状態」を否定する理由とはならないということです。
(「連絡会」が昨年9月24日に最高検察庁宛てた「上申書」より)
改めまして、昨秋(8月末から10月にかけて)、道内はもちろん全国から、7万7千筆(77,858筆)もの署名に託して寄せられたご支援に、感謝を込めて報告させていただきます。
願うことは、本事件の犠牲を無にせず、今後の刑事司法においても、命の重みに見合う厳正な処罰であって欲しいということ、および、この様な悲劇は二度と再び繰り返してはならないということです。
そうなってこそ、被害ご家族は当事者である娘さんたちに「報告」ができるのだと思います。
もちろん、本件被告は、この上さらに被害家族を苦しめることのないよう、控訴せず、直ちに真摯に、犯した罪の重大さと向き合うべきであります。
以上