論考・発言

【6】2010/1 意見募集に応じ、法務省刑事局に提出した意見書「凶悪・重大犯罪の公訴時効の在り方等について(意見)

投稿日:2010年1月16日 更新日:

平成22年1月16日

法務省刑事局
刑事法制管理官室 御中

北海道交通事故被害者の会

凶悪・重大犯罪の公訴時効の在り方等について(意見)

論点1「公訴時効見直しの必要性、妥当性」について

【意見】

 公訴時効制度を見直し、重大犯罪の公訴時効は廃止すべきです。

【理由】

 そもそも時効とは、犯罪追及に当たる国の負担を減らすという考えから政策的に定められたものです。恩赦や減刑とは異なり、犯人に与えられている権利などではなく、不当な「恩恵」にすぎません。

 公訴時効制度の趣旨として「一般に」解されてきたとして紹介されている③の「犯罪後、犯人が処罰されることなく日時が経過した場合には、そのような事実上の状態が継続していることを尊重すべきこと」という「根拠」は言語道断と言うべきです。犯罪被害者等基本法がその前文で「犯罪被害者等の視点に立った施策を講じ、その権利利益の保護が図られる社会の実現」と述べ、被害者等の視点を強調していますが、被害者の悲嘆を犠牲にして、犯人を保護すべき理由などあるはずがありません。

 また、同じく「根拠」の②には、「時の経過とともに、被害者を含め社会一般の処罰感情等が希薄化すること」が挙げられていますが、これも甚だしく不当で実情を無視したものです。被害者・遺族が真相を知り、加害者を厳正に裁いてもらいたいという痛切な思いは、年月によってより深く刻まれることはあっても、薄れるものではありません。北海道交通事故被害者の会の会員で、30年前にひき逃げ事件の被害に遭い、重大な後遺症を伴う傷害を被った方のご家族は、事件後一変した介護の生活に、「30年間、辛い事が多すぎ、捕まっていないひき逃げ犯人の事を忘れることはできない。犯人が何のとがめも受けず生活している事を考えると、今でも許せない」と、変わらない犯人への憎しみを語り、時効の見直しを強く訴えています。

 犯罪被害者等基本法は第3条で「すべて犯罪被害者等は個人の尊厳が重んじられ、その尊厳にふさわしい処遇を保障される権利を有する」と明確に謳っています。被害者の「尊厳」とは何でしょうか。最も基本的な生きる権利そのものを他者によって一方的に奪われた被害者・遺族は、どうして被害に遭わなくてはならなかったのか、誰によってどのようにして、という事件の真相を知ること、そして加害者への公正な処罰を先ず求めます。その事なしには、理不尽にかけがえのない肉親をまたは健康を奪われた被害の現実に向き合い、回復への道を歩むことは不可能なのです。公訴時効という制度は、被害者・遺族の「尊厳」にとって欠く事のできない必要条件を制度として潰してしまうことにほかなりません。

 私たちは、ひき逃げの厳罰化など、「逃げ得」という矛盾を生まない法改正も求めていますが、公訴時効によって「逃げ得」が完成されてしまうことを決して許すことはできません。そのことが、犯罪を助長してしまうことにもなりかねないことを考えると尚更です。

論点2「凶悪・重大犯罪の公訴時効見直しの具体的在り方」について

【意見】

 公訴時効期間の延長は、本質的改善とは成り得ません。あくまで公訴時効制度の廃止を進めるべきです。また、時効廃止の対象とする重大犯罪には、死亡に事件に限らず、自動車運転過失致死傷罪など傷害の被害も加えるべきです。

【理由】

 論点1で述べたように、公訴時効そのものに問題があるのですから、期間の延長によっては問題の本質的解決は図れません。被害者等にとって、いつか犯人は捕まり公正に処罰は下される時が来るという希望を絶たれることは、耐え難いものであるからです。犯罪被害者等基本法との齟齬も明確です。

 さらに、特定の犯罪についてのみ時効を撤廃するのでは「一定の犯罪について特別の取扱いをする」ことになるという新たな矛盾も生みます。重大事件全てについて、時効期間の延長ではなく、廃止の方策を求めます。

 時効廃止の対象となる重大犯罪には、傷害を負わせた場合も含めるべきです。人の死傷という結果の重大性、悲嘆に暮れる遺族がいること、後遺症に苦しむ被害者と家族がいることなどは、殺人罪などの重大性と変わるところはありません。前項の「理由」で記したひき逃げによる傷害被害の家族の思いに代表されるように、死に匹敵する後遺障害で苦しんでいる被害者が多数おられます。その苦しみは一生続くのに、犯人は逃げることで刑事責任から完全に解放される時が来るというのは、正義に反しますし、こうした反倫理を国民も許すはずがありません。

 次に、なぜ自動車運転過失致死傷罪など交通犯罪も時効撤廃の対象犯罪にすべきかについて付言します。

 交通犯罪で、被害者が死亡あるいは重傷で証言できない場合は、初動捜査において加害者の一方的な証言に沿って杜撰な証拠書類が作られ、結果として真実とはかけ離れた捜査内容によって処分・処罰されるケースが後を絶たないという実態があります。そのため、被害者等が提起する民事訴訟は、賠償目的ではなく刑事裁判で叶わなかった真相究明のために行うというケースがほとんどで、実際に刑事裁判とは異なる事実認定がされることも希ではありません。

 同時に、交通犯罪は、複雑な要因が絡み、その解明に時間を要するケースも少なくないのですが、その時に、加害者を利する不当捜査の援軍となっているのが時効制度です。遺族等が必死に時間をかけて目撃者を探すなど真実発見に努めますが、時効制度はこうした捜査協力にも水をさし、真実から遠ざけ、犯罪行為を野放しにすることにつながります。

 さらに、交通犯罪の場合は、事件現場に証拠が存在する可能性が高いのですから、科学的捜査を徹底すれば、証拠の収集,確保などが困難なケースは殆ど無くなると考えます。交通犯罪に関して、証拠の散逸などを理由として公訴時効制度を維持するとするならば、それは本末転倒であり、犯人を裏付ける証拠を捜査の徹底によって、科学的に初動段階で収集することを義務づけなくてはならないのです。

論点3「現に時効が進行中の事件の取り扱い」について

【意見】

 公訴時効の撤廃は遡及適用をすべきです。

【理由】

 公訴時効制度は、犯罪者に逃げ得を許す反正義であり、犯罪被害者の苦しみと怒りに時効はありませんから、極めて不公正な制度です。この悪しき制度の撤廃を遡及的に適用することは、今現在、時効を前にして不安に苛まれている多数の被害者の心中を察するに当然の措置です。

 遡及適用に反対する側は、憲法39条を持ち出しますが、39条には「既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問われない」とあるのであって、時効成立=無罪ではありませんから、遡及不可の論拠にはなりません。

論点4「刑の時効見直しの必要性・具体的在り方」について

【意見】

 時効撤廃との整合性を図り、見直すべきと考えます。

以上

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