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【16】2021/10「ハートバンドの歩みと 基本法制定から16年の課題」~全国被 害者支援ネットワーク発行の記念誌に執筆~

 以下の論考は、全国被害者支援ネットワーク発行の記念誌「犯罪被害者支援の過去・現在・未来-犯罪被害者支援30年・犯罪被害給付制度及び救援基金40年記念誌-」(p164~168)に掲載されたものです。
 なお、10年前の(同)記念誌への執筆稿は、論考・発言No.9の「ハートバンドの誕生と『いのち・きぼう・未来』」です。

ハートバンドの歩みと 基本法制定から16年の課題

犯罪被害者団体ネットワーク(ハートバンド)代表
北海道交通事故被害者の会 代表
前田敏章

Ⅰ. 第1回全国大会(2003)と「ハートバンド」の誕生(2005)

 執筆機会を与えて頂いたことに深謝致します。前誌拙稿ではハートバンド発足の経緯にふれながら、被害者の現状と願いを記させて頂きました。本稿では、その後10年を経ての、犯罪被害者等基本法(以下「基本法」)施行から16年の課題について述べさせて頂きます。
 なお、私たちが第1回大会とカウントしているのは、2003年10月3日、日本大学カザルスホールに280名が集い開催された「犯罪被害者支援の日制定記念・中央大会」です。主催の全国被害者支援ネットワーク(当時、山上皓会長)から、全国21の被害者団体に案内され、14団体が共同参画。全国の被害者団体が一堂に集う最初の機会となりました。私も北海道の会から参加し、孤立無援の犯罪被害者に確かな希望の光が差し込むような感懐を持ったことを鮮明に覚えています。
 そして、全国の被害者団体が「ハートバンド」という連合体として正式発足したのは、基本法が施行された2005年です。その年の大会前日11月27日には「犯罪被害者等基本法制定記念全国大会」の横断幕を先頭に「きぼう」の風船を手に都内パレードも行いました(写真)。
 2006年以降の大会は、犯罪被害者等基本計画(以下「基本計画」)に定められた犯罪被害者週間(11月25日~12月1日)の中で、「いのち・きぼう・未来」を大会テーマに、交流討議を重ねています。

2005年11月26日、大会前日のパレードに集う全国17団体の仲間

2005年11月26日、大会前日のパレードに集う全国17団体の仲間

Ⅱ. 18回目となる2020全国大会は、初のオンライン開催

 2020年11月28日、18回目となる全国大会は、新型コロナ感染の問題からオンライン開催を余儀なくされ、東京の配信会場からZOOMとYouTubeでの開催となりました。
 来賓挨拶で、警察庁犯罪被害者等施策担当の西連寺参事官からは、「(検討中の)第4次基本計画を中心に被害者の権利利益を護る施策充実に努めたい」との力強い言葉をいただき、救援基金の黒澤専務理事からは、「近年の地方自治体における条例制定など制度改善は貴団体の努力に因るもの」との激励を受け、支援ネットワークの奥山専務理事からは、「多くの被害者は声を上げる元気も無い中で、ハートバンドがこれを支えている」との暖かい言葉をいただきました。最後に、2020年4月に被害者支援条例を施行した東京都知事のメッセージ文が紹介されました。
 大会メインの「被害者の声」は、2013年に当時15歳の娘さんを殺害された三重県の寺輪悟さんが、支援者の仲律子氏(みえ支援センター)との対談形式で、犯罪被害者の置かれている諸問題と三重県支援条例に結実した取り組みなど語られました。続いて、伊藤冨士江氏(上智大元教授)からは、4次基本計画策定に向けての国の動きと課題が提起され、その後、参加20団体の活動報告が編集画像により行われ第1部を終了しました。
 第2部は、分科会は見送り、「ハート・トーク」のみをZOOMで行いました。オンラインだから参加できた、という遠方の被害者の方もおり、沖縄から北海道まで13団体の方が発言。コロナ禍の中でも支え合い活動継続していることの報告や課題の討議がされました。
 このように、今大会も、基本法の謳う被害者等の尊厳と権利回復のために、さらなる制度改善と、条例による自治体での具体的生活支援等の推進、そのために不可欠な国民理解の深化をめざし、励まし合って活動を続けることを誓い合ったところです。
 なお、現在のハートバンド参加団体数は10年前と変わらず20団体ですが、一部入れ替わっています。以下、括弧内は事務局所在地です(※は新団体)

  • ◆ 青森被害者語りの会
  • ◆ 佐賀犯罪被害・交通事故被害者遺族の会「一歩の会」
  • ◆ NPO法人 いのちのミュージアム(東京)
  • ◆ 飲酒ひき逃げ事犯に厳罰を求める遺族・関係者全国連絡協議会(北海道、大分)
  • ◆ NPO法人 犯罪被害当事者ネットワーク 緒あしす(愛知)
  • ◆ 風通信舎(兵庫)
  • ◆ ピアサポート大分 絆の会(※大分)
  • ◆ NPO法人 KENTO(奈良)
  • ◆ NPO法人 交通事故後遺障害者家族の会(東京)
  • ◆ 交通事故調書の開示と公正な裁きを求める会(神奈川)
  • ◆ 一般社団法人 交通事故被害者家族ネットワーク(東京)
  • ◆ 栞の会~お兄ちゃん・お姉ちゃん・妹・そして弟~(※兵庫)
  • ◆ 自助グループ「ジュピター」(神奈川)
  • ◆ TAV交通死被害者の会(大阪)
  • ◆ はがくれ(佐賀)
  • ◆ 被害者支援自助グループ「ピア・神奈川」
  • ◆ 被害者支援を創る会(東京)
  • ◆ ひだまりの会okinawa
  • ◆ 北海道交通事故被害者の会
  • ◆ 鹿児島犯罪被害者自助グループ「南の風」

Ⅲ. 基本法制定から16年の課題

(1)回復されるべき権利と主要課題

 ハートバンドは、被った犯罪の種別も態様も異なる全国の被害者団体が「ゆるやかな連携」を共通認識に集う連合体であり、交流は活動目的の中で大きな比重を占めます。
 しかしながら、この10年の大会討議を振り返ると、基本法の定める「尊厳にふさわしい処遇を保障される権利」(第3条)の回復には、未だ道半ばの残された課題も多く、権利主体の連合体としての活動の重要性を実感します。
 回復されるべき権利を、被害者学の諸澤英道氏は、次の3つにまとめ、重要点など指摘しています(注1)

  1. 知る権利:最も重要な権利で被害回復の必要条件。被害者には知る権利があることを知らされる権利があることも重要。
  2. 刑事司法に参加する権利:捜査に始まって、裁判、刑の執行、加害者の社会復帰という一連の流れの全てに関与する権利がある。
  3. 被害から回復する権利:被害回復を支援する責務は国にあるが、加害者も損害を賠償し、被害者の立ち直りのために必要な行動をとる義務がある。

 ハートバンドは、この権利回復を求め、2019年8月の基本計画見直しの意見聴取会では、初めて意見提出も行いました。内容は多岐に渡りますが、3項を示し、およびについて次項で補足します。

  1. 加害者の賠償について、国が立て替えて被害者に支払い、国が加害者から取り立てる新たな補償制度の創設。
  2. 身近な市町村における、「生きるための生活支援」等が、全国どこに住んでいても受けられるように被害者条例制定を核にした施策推進。
  3. 被害者参加制度の主旨が、別途新設された裁判員制度の中で埋没してしまった部分がある。公判前整理手続に被害者および被害者参加人弁護士の出席を可とする制度改善など被害者参加制度の充実。

 

(2)条例制定を軸に、全ての自治体で支援の充実を

 基本法第5条には地方公共団体の責務が明記され、第11~19条にも「国および地方公共団体は」との書き出しで基本施策が定められています。しかし、自治体における理念理解と実効ある施策は遅れ、県および市町村での特化条例制定も一部に留まっておりました。
 こうした中、2013年のハートバンド全国大会で「全ての自治体に被害者条例を」を共通課題とし活動を開始、アンケート調査も実施しました。2014年からは条例研究会(諸澤英道氏幹事)の多大な力添えも得て、分科会テーマにも設定し、討議と交流、住んでいる自治体での要請活動を繰り返しました。
 結果として、被害者条例は2014年以降の7年間で、16都道府県で新たに制定されて計21都道府県(47中)となり、同じく、生活支援金などの定めは、172増の255市区町村(全1761中)と、大きなうねりになりつつあります。
 被害当事者と研究者・自治体の専門職員の方などで構成する条例研究会の先駆的献身的な活動に深く敬意を表します。

(3)被害者参加制度の純化めざし

 2014年11月、全国大会の前日、私は法務省刑事局の一室で、最高検通達「犯罪被害者等の権利利益の尊重について」の説明を受けていました。「通達」は、法務省が刑事裁判への被害者参加を定めた「平成19(2007)年改正刑事訴訟法等」施行後3年を経ての見直しのための意見交換会(2013~14年計12回 ハートバンドから前田も委員として参加)での検討を踏まえて発出されたもので、私たちが求めてきた、公判前整理手続きへ参加は明記されず「傍聴」の希望を裁判所に伝えるという「配慮」に留まったものの、手続きの中で、検察官から被害者へのより丁寧な説明や情報提供、証拠閲覧の弾力的運用、主張・立証に当たっての(被害者からの)要望への配慮、公判期日設定の配慮、等々、被害者参加制度の純化に向けて重要な一歩となる内容でした。私は翌日の大会で、この貴重な報告をすることが出来ました。
 検討会の過程では、日弁連・刑事弁護センターの委員が、既に施行されている基本法の理念に反し、被害者参加そのものに反対であるという意見書を提出し、参加の制限をも主張するという信じがたい場面もありました。
 私は、こうした異論に対し、あすの会および全国被害者支援ネットワークの委員の方と共に、被害者参加は当然の基本権であること、公判前整理手続きへの被害者参加などさらなる充実改善こそ求められていることを、北海道の会員実例もあげて懸命に意見提言したところです。
 結果が上記通達ですが、法務省は同時期に下記見解も公表(注2)しています。
「(法務省としては)意見交換会における御意見・御指摘を踏まえ, 検察における被害者参加制度等の運用のより一層の充実を図っていくべきであるとの結論に達しました。
 検察においては, 公判前整理手続等の経過及び結果についての適切な説明, 被害者参加人等の行う訴訟行為に関する助言等といった被害者参加人等への対応に遺漏がないようより一層努めることに加え, 検察官と被害者等との間のコミュニケーションのより一層の充実, 公判における主張・立証事項に関する被害者等の要望への配慮, 検察と関係各機関との連携などに引き続き努めていくこととしています。」
 私たちは、「配慮」から、当然の「権利」として機能させるべく、制度改善をさらに求めていきたいと思います。

Ⅳ.「あすの会」の理念と気概に学ぶ

 この10年の中で衝撃を受けたことがあります。基本法制定と刑事裁判における被害者参加制度や公訴時効制度の見直しなど、被害者の尊厳と権利回復にとって正に画期となる制度改革を成し遂げた全国犯罪被害者の会「あすの会」が、2018年6月に18年半の活動を閉じられたことです。
 ハートバンドの2010年大会で、あすの会岡村勲代表幹事の基調講演が実現した意義は前誌でもふれましたが、氏が「犯罪被害者の権利を求めて」と題し私たちに語りかけてくれた次の言葉は、今も強く心に響いています。
 「刑事裁判において被害者が証拠品としか扱われていないという(欧米より)30年遅れた日本の現状を変えるために政策団体として活動した」「(被害者の)権利は、泣いていても得られない。たたかい取るもの」「(独仏の調査後)2003年より被害者参加など刑事司法の改革を求める署名活動を全国50箇所で行い57万筆の国民の声を集め、基本法制定に繋げた」「基本法は『支援法』ではなく『権利法』」「被害者を憐れみの対象としてみるのでなく、共に歩んで欲しい」などなどです。
 あすの会の崇高な理念と不退転の気概は、創られた法律や制度の中に、そしてあすの会と関わりを持った全ての方の胸に根付いているものと確信します。私たちは、導いて頂いた尊厳と権利回復への道を、権利主体として歩み続けなくてはならないと思います。その決意を記して、あすの会への感謝に代えたいと思います。

Ⅴ.「いのち、きぼう、未来」

 かけがえのない家族や大切な人を理不尽に犯罪などで奪われ、あるいは心と身体に癒しがたい傷を負わされ、無期限の悲憤に苛まれる私たちは、「こんな悲しみや苦しみは私たちで終わりにして下さい」と叫び、犠牲を無にせず安全に暮らせる社会を、と切に願います。
 被害者は、懸命に生きるために、「被害者の権利」の回復を求めますが、これを妨げる大きな要因に、社会にはびこる被害者への偏見と無理解があります。「何か原因があったから被害に遭った」という「被害者の落ち度論」などが典型ですが、悪しき「自己責任主義」が残るわが国では、被害者への深刻な二次被害と成って迫り、制度改善への障壁ともなります。
 諸澤英道氏は、1985年の「国連被害者人権宣言」で使われた「被害者の正義」という言葉を重視され、国民の基本的人権にプラスして「被害者の権利」が保障されなくてはならないと説きます。(前出、注1)
 皆さまにお願いします。命の尊厳と被害者の正義を貫く社会正義実現には、被害者の視点と被害者理解が不可欠と考えます。私たちの、今は亡きかけがえのない家族・友人の「声なき声」を、そして、「遺された者」からの魂からの訴えに耳を傾け続けて下さい。被害者等と向かい合うのではなく、「いのち、きぼう、未来」を合い言葉に、共に歩んで下さい。崇高な生命倫理を社会の隅々にまで広げ、犯罪被害を生まない社会を創るために手をつなぎ合いましょう。
 私たちの願いと活動を物心両面から支えていただいている、全国被害者支援ネットワーク、犯罪被害救援基金をはじめ、全国の関係・支援団体、そして、警察庁はじめ全ての関係機関に厚くお礼を申し上げるととともに、広く国民の皆さまに、より一層の被害者理解とお力添えをお願いして、筆を置かせていただきます。

〈注〉
(注1)諸澤英道「被害者学」誠文堂 2016年 
(注2)法務省ホームページ「平成19年改正刑事訴訟法等に関する検討の結果について」
 
 
〈出典〉

犯罪被害者支援の過去・現在・未来
-犯罪被害者支援30年・犯罪被害給付制度及び救援基金40年記念誌-

2021年10月8日発行

編集・発行:公益社団法人 全国被害者支援ネットワーク
日本被害者学会
公益財団法人 犯罪被害救援基金
警察庁犯罪被害者支援室

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