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札幌市西区で起きた自転車児童の交通死を悼む ~クルマを凶器としない社会を一刻も早く~

 2022年4月20日、「自転車の小学5年男児がワゴン車にはねられ死亡 札幌市西区」というニュース速報に戦慄が走りました。ワゴン車を運転していた男は逮捕されたとのことですが、市内で起きた悲惨な事件に、胸が押し潰されそうでした。
 現場で手を合わせたく、そして悲劇を繰り返さないために今後為すべきことを考えたく、事件から2日後の22日午後、ご家族の深い悲しみを想いながら現場の市道交差点に向かいました。

1 札幌市西区の交差点で自転車児童が交通死

報道記事より

自転車男児はねられ死亡 北海道新聞2022/04/21

 4月20日午後2時45分ごろ、札幌市西区西野11の9の市道交差点で、自転車で道路を横断していた○○さん(10歳)がワゴン車にはねられ、頭などを強く打って間もなく死亡した。札幌西署は自動車運転処罰法違反(過失致傷)の疑いで、ワゴン車を運転していた○○容疑者を現行犯逮捕した。
 同署によると、現場は信号機や横断歩道のない交差点。

沢山の供花が大きな花束となって

 事件現場は、閑静な住宅街の市道交差点でした(写真2)。現場横の歩道(写真の消火栓横)には、沢山のお花が供されており、それらが一つの大きな花束のようになっておりました(写真1)。私の前に、同じ学校の生徒さんと思われる女児数人とご婦人の方がお花を供え、手を合わせておられました。

写真1 お花

写真1 お花

写真2 現場交差点

写真2 現場交差点

 お花を供え、手を合わせて、改めて、社会が絶対的に護るべき児童(子ども)の命が、昼間の住宅街の公道で何故に奪われてしまうのか、加害運転者の危険行為と、本来「道具」であるべきクルマが未だに「凶器」のように使われていることの怒りで、胸が震えました。
 

2 閑静な住宅街の交差点で何故

 現場(札幌市西区西野11-9)は、閑静な住宅街です。何故小学5年の児童は命を奪われなくてはならなかったのでしょうか。
 事件当日のTV報道では、自転車で道路を横断しようとした児童が、右から直進してきたワゴン車にはねられ頭を強く打って死亡されたとのことです。

 花を手向けた後、児童が自転車で渡ろうとした交差点を見る方向に立ちました(写真3)。次に、ワゴン車の進行方向から事件現場の交差点を見ました。(写真4)

写真3 自転車児童の走行方向

写真3 自転車児童の走行方向


 
写真4 ワゴン車の進行方向

写真4 ワゴン車の進行方向

 現場に立ち、疑問を感じました。運転者は何故児童の発見が遅れたのか、交差点での速度はどれほどであったのか、衝突を回避できなかったのは何故なのか、と。
 このことについては、運転者が自動車運転処罰法違反(過失運転致死)容疑で取り調べをされているので、今後明らかにされると思いますが、私は改めて、道路交通法(以下「道交法」)が定める交差点での安全運転義務を確認しました。
 

3 加害運転者は厳罰に処すべき 〜道交法は交差点における車両の安全運転義務を明記〜

 児童が犠牲になったのは、住宅街に多い信号のない交差点です。運転者は、以下の法が定める安全運転義務を遵守しなければなりませんでした。

 交差点での車両等の通行方法を規定しているのは道交法第36条であり、とりわけ、交差点での注意義務を明記しているのが同条の4項です。下記の条文のように、運転者は特に、交差道路からの通行自転車や歩行者の存在を確認し衝突を回避するためできる限り安全な速度と方法で進行しなければならない」と強調しています。

「道路交通法」第36条4項
 車両等は、交差点に入ろうとし、及び交差点内を通行するときは、当該交差点の状況に応じ、交差道路を通行する車両等、反対方向から進行してきて右折する車両等及び当該交差点又はその直近で道路を横断する歩行者に特に注意し、かつ、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない。

 当然ながら、相手に一時停止があったり、自分が優先道路であっても、本36条4項の注意義務は適用されるのであって、〈車両が優先だから責任がない〉ということには決してならないのですが、この点についての周知徹底が不十分なため、危険な運転行為による被害が頻発していると考えられます。

 この道交法第36条4項の重要性については、「道路交通法解説」(東京法令、17訂版p341)に次の記述があることも極めて重要です。(下線は筆者)

「(第4項は)交通整理が行われていることの有無、道路の優先関係の有無にかかわらず、すべての交差点における車両等の一般的注意義務を規定したものである。(中略)この交差点における車両等の一般的注意義務は、本来法第70条の安全運転の義務の内容をなすものであるが、交差点及びその付近において交通事故が多発している実情にかんがみ、交差点に入ろうとし、及び交差点内を通行する場合の車両等の注意義務を特に定めたものである」

※上記の車両運転者の安全運転義務等を徹底するべく、補充規定として設けられた第70条は以下です。

「道路交通法」第70条
 車両等の運転者は、当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、かつ、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない。

 

4 「人命軽視の麻痺したクルマ優先社会」は、即刻改めなくてはならない

 この西区児童の事件後間もない4月28日、地元紙「北海道新聞」夕刊の片隅に、札幌市豊平区の市道で道路を横断していた「(登校中の)中学生はねられ2人けが」という事件が報じられました。
 現在のクルマ社会の異常性を改めて強く感じ、統計資料をみました。

 北海道警察本部交通企画課がまとめた「小学生の交通事故実態」(2022年3月)によると、道内の小学生が過去5年間(2017~21)に歩行中と自転車乗用中に受けた被害は、死者2人(いずれも自転車)、負傷者862人にもおよびます。(歩行中と自転車中の割合はほぼ1:1)
 若干の減少傾向にあるとは言え、この5年間の平均(862人/5年)は172人ですので、

道内の小学生は、歩行中と自転車乗用中に、今も、2日に1人の割合でクルマにより負傷させられている

のです。
 死者の他に、かくも多数の負傷被害があることに目を向けて下さい。負傷者の中には、遷延性意識障害など重篤な後遺障害に一生苦しまれる事例もあります。登下校中などに危険や恐怖を感じた児童も大変な数になるでしょう。

 社会が絶対的に護らねばならない子どもの命と安全が、どうして護られなかったのか、本事件の原因と背景要因を明らかにして、再発防止、被害ゼロの社会実現に結びつけなければなりません。

 もちろん、危険な状態に置かれているのは子ども・児童だけではありません。警察庁交通局の「令和3年中の30日以内交通事故死者の状況」によると、全国、全年齢での歩行者及び自転車乗用中の死傷被害は、昨年(2021年)1年間だけで、死者1302人、負傷者10万4720人(うち重傷者は1万3465人)におよびます。
 平均すると、毎日、全国どこかで、(子どもや高齢者を含む)歩行中または自転車乗用中の方が、クルマによって、およそ、4人の命が奪われ、300人の方が負傷(うち40人は重傷)被害に遭っているのです。

 私は、この「人命軽視の麻痺したクルマ優先社会」がひき起こしている現状を「日常化された大虐殺」と捉えるべきと考え、本サイト下記ページでも訴えています。

 

5 交通死傷ゼロへの根底課題の一つは「ゾーン30」等による交通静穏化

 本来「道具」であるべきクルマが、未だに「凶器」の如く使われている現状はまさに異常です。クルマを凶器としない、交通死傷ゼロという当たり前の社会を創るために、根底の課題を総合的に推進しなければならないと強く思います。
 根底課題の例は前記「・・・しかし交通死傷は「日常化された大虐殺」のページ後段にその例を示していますが、その重要な一項が、この度の児童交通死事件でも改めて浮き彫りになった、生活道路における低速度規制(「ゾーン30」など)です。

 この点では、2016(平成28)年3月の「第10次交通安全基本計画」が、

「生活道路については、歩行者・自転車利用者の安全な通行を確保するため,最高速度30 キロメートル毎時の区域規制等を前提とした「ゾーン30」を整備するなどの低速度規制を実施する」

と、「ゾーン30」による低速度規制の方針を示しましたが、その実施状況はごく一部の道路に留まるなど不十分で、未だ危険な道路環境の改善には至っておりません。
 この、歩行者・自転車利用者の安全な通行にとって重要な施策が全面実施され、全ての住宅街でのクルマの低速度安全走行が徹底されていれば、西区児童をはじめ、多数の理不尽な死傷被害は防ぎ得たと思います。

6 西欧の「ビジョン・ゼロ」施策に学ぶ
~パリ市は(2021年8月から)市内全域が30キロ以下に規制~

 わが国の交通死者数に占める歩行・自転車乗用中の割合が、西欧各国と比べても格段に多いこと(※)は、以前から指摘されていることですが、クルマを「凶器」としない社会を実現するために、学ぶべきは、西欧中心に進む「ビジョン・ゼロ」の取り組みです。(後段の参考1参照)

※ 警察庁交通局の「令和3年における交通事故の発生状況について」によると、
2020年の状態別(30日以内)死者数のうち、歩行中と自転車乗用中の割合は、日本が52.0%(歩:35.2 自:16.8)であるのに対し、フランスは22.4%(歩:15.4 自:7.0)、ドイツは29.5%(歩:13.8 自:15.7)、イギリスは32.8%(歩:23.2 自9.6)です。

2020年の状態別(30日以内)死者数のうち、歩行中と自転車乗用中の割合(出典;警察庁交通局「令和3年における交通事故の発生状況について」)

2020年の状態別(30日以内)死者数のうち、歩行中と自転車乗用中の割合
(出典;警察庁交通局「令和3年における交通事故の発生状況について」)

 西欧の進んだ取り組みからは、私たちに希望を与えるニュースが報じられてきます

  • ノルウエー(人口532万人)では2019年、15歳以下の子どもたちの交通死がゼロであり、首都オスロ(人口67万人)では、全年齢の歩行者と自転車利用者の死者がゼロとなった。(JBpress2020.1.16「歩行者の交通事故死をなくしたオスロの秘訣」)
  • フランスの首都パリ市(人口225万人)では、すでに市内の道路の約60%に時速30キロの制限速度が導入されているが、2021年8月からは、市内ほぼ全域の速度を30km/h以下に制限し、高速走行が認められるのは市を囲む環状道路と一部の主要道路のみになるとした。(AFP BBNews 2021.7.9「仏パリ、ほぼ全道路で制限速度30キロに8月末から」)

 WHOも、「30km/hの制限速度を世界中の都市、町、村の標準に」というキャンペーンを始めています(後段の参考2参照)

 歩行者の絶対安全のために、運転をする「人」、走らせる「車」、通行する「道路」のそれぞれに対して、ゼロへの抜本的な施策を講じなくてはなりません。

 私たちは、4月20日の札幌市西区で起きた児童交通死事件はじめとした尊い犠牲を無にしないために、社会全体が早急に「交通死傷ゼロ」への抜本施策へと舵を切るために、声を挙げなくてはなりません。
 本サイトでも訴えを続けます。


〈参考1〉西欧の交通政策抄

  • 1972年にオランダで発祥の「ボンエルフ」(下図、「生活の庭」と称される「歩車共存」の生活道路。通行の優先権はクルマに無く低速で通行)は、その簡易型が「ゾーン30」として欧州各国に拡がる。
    図 ボンエルフの標識の例

    図 ボンエルフの標識の例

  • イギリスでは、1991年にゾーン20(マイル)を採用して以来、独自のボンエルフである「ホームゾーン」を全国に拡大している。
  • スウェーデンでは、1997年に「ビジョン・ゼロ」(長期的目標として、スウェーデンの交通システムによって死亡したり、重傷を負う人をゼロにする)が国会決議される。
  • フランスでは1982年、自動車優先の都市政策を見直し「持続可能な交通」(Sustainable Transport)を掲げる「交通基本法」を制定。公共交通への公費支出を重視し「(公共交通とは収益をあげるものではない)公共交通で黒字を出すことは悪である」とした。
  • EU議会は1988年、フランスの交通権に後押しされて、全8条からなる「歩行者の権利に関する欧州憲章」を採択して欧州各国の取組に影響を与えた。憲章の第1条で、歩行者の身体的・精神的な安全保障を権利として明記し、第2条には「歩行者は、自動車ではなく人間のために整備された都市または集落に居住し、歩行者や自転車の移動距離内で、生活の利便性を享受する権利を有する」ことも規定されている。

〈参考2〉WHO(世界保健機関)の「30km/hの道路」キャンペーン

 WHO(世界保健機関)は昨年、「交通安全のための行動の10年2021-2030」を開始しましたが、その中で「Love30キャンペーン」(Streets for Life ♯Love30)を展開。
「第6回国連グローバル交通安全週間」(2021年5月17~23日)の広報サイト https://www.unroadsafetyweek.org/en/home は、30km/hの制限速度を世界中の都市、町、村の標準にするためにと、次の主旨の呼びかけを行っています。
「時速30km(時速20マイル)の道路は、歩行者、自転車、子供、高齢者、障害者など、それらを使用するすべての人、特に最も脆弱な人々を保護します。」「(道路が安全であれば)人々が歩いたり自転車に乗ったりするため、身体活動を促進するのに役立ちます。」「私たちは政策立案者に、世界中の低速道路のために行動し、人々が歩き、生活し、遊ぶ30km/h制限を求めています」

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© 2022 交通死「遺された親」の叫び